前立腺生検における腺癌と鑑別を要する病変

更新日:2009年10月05日
掲載日:2009年10月05日
病理診断を行う前に注意すべきこと−標本作製・泌尿器科医との連絡など  1.前立腺生検標本におけるスクリーニングの要点(表1)  2.腺癌との鑑別を要する腺癌類似良性病変  3.腺癌と鑑別を要する前癌病変、PIN  4.結語  参考文献

病理診断を行う前に注意すべきこと−標本作製・泌尿器科医との連絡など

図1:前立腺針生検標本の固定方法の例。濾紙上でコアを軽く伸展して濾紙に圧着させ、カセットに収めたのちホルマリンに浸す。多数本を1カセットに包埋すると、適切な薄切面が得られないことがある。同一部位の再生検の必要等に備え、コアの番号記載は正確にする。濾紙に圧着させれば、マーキングの墨汁の流出を防ぐこともできる。
図1:前立腺針生検標本の固定方法の例

前立腺生検の主要な目的は、前立腺原発の腺癌を確定診断するとともに、腺癌の個性を明らかにし、あるいは腺癌の前駆病変を見いだして、治療の指針を示すことにある。従って、腺癌ならびに腺癌と鑑別を要する病変を、採取された生検標本の中から、遺漏なく拾い上げなくてはならない。そのために、プレパラートの鏡検を始める前にも、注意を払うべきことがある。


泌尿器科医が直腸診、超音波検査で前立腺より十分な長さの生検コアを採取してきても、薄切面が島状に並んで不連続となった切片が作製されれば、鏡検できる前立腺組織の面積は極端に制限される。癌がサンプリングされていても、薄切面に出ていないために診断できなければ、患者ならびに泌尿器科医に大きな不利益となる。このような事態を回避するには、生検標本を水平に固定することが必須である。従って、病理標本の作製過程等に触れる機会のない泌尿器科医にも検体処理などの工夫を仰ぎ、採取したコアが有効に観察されるように努めることが望ましい。具体的には濾紙上で生検コアを軽く伸展して圧着させ、カセットに収めたのちホルマリンに浸す等の手間が必要で、国立がん研究センター中央病院では外来ならびに手術室で泌尿器科医が励行している (図1)。


さらに、採取するコアの本数がある程度以上に増せば適切な診断にたどり着くことを期待し1)、いわゆるsextantではなく10本以上のコアを採取する施設もあるが(時にはsaturation biopsyとして20本以上のコアを採取する施設がある)、多数本採取したすべてのコアを1ないし2ブロックに一度に包埋した場合はコアによってわずかではあるものの向きが異なるため、すべてのコアにとって最適な薄切面が得られず、多数のcoreを採取した苦労が報われない。実際、1ブロックに包埋するコアの数を制限することで、検出率の向上が期待できるとの報告もある2)。初回生検において腺癌を疑う病変を認めた場合、同一部位の再生検標本で腺癌の診断が確定する確率が高いので3)、コアの番号記載を正確にする必要がある。国立がん研究センター中央病院においてはさらに、前立腺全摘術の適応になった場合の神経温存の適否を決定するために、病変分布の同定を目指しており、被膜の対側に点墨を施してからカセットに収めている。図1のように生検コアを濾紙に圧着させれば、墨汁の流出を防ぐこともできる。もし、各施設の泌尿器科医が、これらの諸点が前立腺生検の病理診断の質の向上に寄与することを認識していない可能性がある場合、病理医側から注意を喚起する目的で討議を呼びかけるべきと考える。前立腺生検においては、後述するようにいわゆる“Atypical glands”(Atypical small acinar proliferation, ASAPと称される場合もある)といった病理診断をせざるを得ない場合があるので、診断の難しさに共感し再生検を繰り返してもらうためにも、泌尿器科医との密な連絡は重要である。


このように注意して固定した標本であるにもかかわらず、波打って包埋されてしまった場合、深切りを加えた2段階のプレパラートを薄切し、診断可能な面積を増やす臨機応変の機転が技師にも求められる。対応に迷った際に病理医に問い合わせるのは当然であるが、コアの半分を切りとばしてからでは間に合わないので、日ごろから前立腺生検はなるべく広い面積を鏡検できるようにする必要があることを、技師にも伝えておかなければならない。それでも途切れ途切れの標本ができてしまった場合、病理医自身もコアの端の島状の組織にある腺癌を見落とさないよう、コアの形状を肉眼でよく観察してからプレパラートを顕微鏡に載せる注意が必要である。面出しが不十分である場合には躊躇なく深切りを依頼する姿勢が望ましい。なお、泌尿器科医との連携のために日ごろ留意している点として、当該施設の型どおりの生検に加えて、超音波所見等に基づきtargetedのコアを採取しているかどうか、まず確認することにしている。Targetedのコアに、泌尿器科医の予想どおり腺癌が存在すれば問題ないが、存在しなかった場合にも異常と認識された超音波所見を生じさせた原因を泌尿器科医にフィードバックするために、targetedのコアについて腺癌以外の所見も特に丁寧に記載するようにしている。


1. 前立腺生検標本におけるスクリーニングの要点(表1)

表1 生検標本における前立腺癌スクリーニングの要点
観察倍率 観察するべき主な項目
対物4倍など 腺管密度・分布の異常
・正常腺房・腺房間の、不規則な腺管分布(浸潤性)
・腺管密度の上昇(増殖性)

腺管群の染色性
・癌細胞の核濃染と細胞質の両染性を反映し、好塩基性領域と認識される

管腔内容物
・酸性粘液、クリスタロイド、好酸性無構造物
注:正常腺房で見られる類澱粉小体は癌ではまれ
対物10倍など 基底細胞消失(2相性喪失)
注:導管癌では保たれている場合がある

平滑な腺管内腔(straight luminal border)
注:正常上皮が鋸歯状を呈するのと対照をなす

明らかな構造異型
・癒合腺管、篩状腺管、糸球体様構造、索状・充実性胞巣、個細胞性浸潤

癌−間質相互作用
・活性化線維芽細胞等を含む腫瘍間質の誘導
注:前立腺癌では他臓器の腺癌に比して低頻度
対物20倍以上 核異型
・核腫大、クロマチン増量、大型あるいは複数の核小体
注:極端に異型的な核が通常出現しないため、正常腺管との比較が必須

図2:(A)低倍率での鏡検で、本来間質であるべき既存の腺房と腺房の間に、異常に高い密度で小型腺管が分布する(矢印)像に着目する。既存の腺房の間でこれらと細胞質および核の形態において明瞭なコントラストを示す小型腺管が増生する像は、浸潤癌と認識しうる。(B)基底細胞マーカーであるp63の免疫染色で、既存の腺房(*)では2相性が保持されているのに対して、癌病巣では基底細胞が認められない。癌腺管では全周性に陰性である
図2

前立腺腺癌の診断の根拠となる異型には構造異型と細胞異型がある。特に診断の難しい高分化腺癌を見落とさないようにするために、低倍率で最初に着目すべき構造異型は、正常な腺房構造を逸脱した小腺管の分布である(図2)。主として、正常な腺房には見られない密度で腺管が存在することを意味し、腺管密度が異常に高い場合と、逆に疎で不規則に分布する(haphazard arrangement)場合がある。腺管密度の増加は増殖性を、疎で不規則な分布は浸潤性を反映している。腺管密度が高いことは対照を置かなくても比較的認識しやすいが、疎であることは正常な腺房の分布をとらえて初めて認識できる。しかも前立腺では、他の臓器の腺組織と異なり、個々の患者の年齢や良性前立腺過形成の程度、採取部位等に応じて既存の腺房の形態に多様性があり、往々にして判断困難となる。また、前立腺癌のほとんどにおいて癌−間質相互作用が乏しく、他臓器の癌で見られるような、浸潤に伴う活性化線維芽細胞等を含む間質反応が認められないことも、浸潤癌成分の認識が困難な原因となる。従って、前立腺においては浸潤の有無は腺管の位置・分布のみを根拠に判断しなければならない。生検コアを鏡検する場合にははじめに確実に正常と考えられる領域を観察する。本来間質であるべき腺房と腺房の間に不規則に小腺管が存在する場合には浸潤癌の可能性を考える(図2)。この場合、小腺管は既存の腺房の間で散在するパターン、密に分布するパターン(図2)のいずれかを示す。低倍率で観察するのは、構造異型ばかりではない。癌細胞の核は腫大や核小体の明瞭化を示し、細胞質は両染性であるため、細胞像においても密在する小腺管と既存の腺房とのコントラストが明瞭となる。細胞の機能的あるいは代謝異常を反映して、管腔内には酸性粘液、クリスタロイド、好酸性無構造物も出現し、これらは低倍率で認識可能である。これに対して正常の腺房内で多く見られる類澱粉小体は腺癌では認められることは少ない。


前立腺癌の診断のよりどころとなる重要な所見が、2相性の喪失(基底細胞の消失)である。病理総論的に考えれば癌化のはじめから浸潤癌である癌は存在しないと考えられるが、前立腺においては上皮内癌が病理組織学的に認識可能とのコンセンサスは得られていないため、導管癌以外の前立腺癌は理論的には浸潤癌と定義され、全周性に基底細胞を失っていると理解される。さらに、非癌腺管はluminal undulationsを伴って鋸歯状を呈するのが常であり、内腔が平滑であることも腺腔形成の明瞭な高分化な癌腺管の重要な特徴である。特に内腔が平滑な均一な腺管が集族している領域は、中倍率程度で目につきやすい。さらに確実な構造異型として、癒合腺管・篩状腺管・索状胞巣・充実性胞巣・個細胞性浸潤像も、中倍率程度までに認識される。これらを総合して生検標本の中のある領域が常と異なっていることを認識した後、高倍率にして核腫大・クロマチン増量・(大型のprominentな)核小体の出現を確認し、癌の確定診断を行う。前立腺癌にbizarreな核や多形性に富む(pleomorphicな)核は通常出現しないが、それでも高分化腺癌や孤在性の浸潤腺管等を癌と判断する決め手は、高倍率で観察する核所見であることが多い。極端な異型核が通常出現しないため、近傍の正常腺管を対照として、核形態の比較をすることが必須である。


一般的な教科書では前立腺生検標本のスクリーニングに際し、低倍率での鏡検の重要性が強調されている。例えば、未治療前立腺全摘標本に散在する癌巣の輪郭等であれば、たとえ微小な癌巣であっても低倍率の方がより明瞭に認識できることをしばしば経験する。また改訂Gleason分類では低倍率による観察でgradingすることが求められている4)。ただし、前立腺生検標本の最初のスクリーニングと良悪の判定に関して、低倍率の真意を誤解し、プレパラートを低倍率で一瞥したときの印象を頼りに、短時間で済ますことがあってはならない。低倍率・高倍率それぞれで観察すべきポイントがあるので、腺癌ならびに腺癌と鑑別を要する病変を漏らさず拾い上げるため、低倍率・高倍率を併用し、複数の鑑別ポイントについて慎重に分析することが大切と考える。さらに、慎重に鏡検しても良悪の判断に迷う場合は、無理をして過大な診断をしないことが望ましいと考える。前立腺癌は、概して進行が遅く、診断が確定しても、Gleason スコアや腫瘍量等に応じてインフォームドコンセントのもとにwatchful wait(最近ではアクティブ・サーベイランスとも呼ばれる)が選択される場合がある5)。このような経過を考えると、良悪の判断に迷う異型の少ない病変を拙速に診断するべきではない。“Atypical glands”などの疑診後の再生検において癌が見つかった場合、Gleasonスコア6以下にとどまる確率が80%程度であるとの報告は6)、過大な診断を回避することが賢明であると考える根拠になる。


2. 腺癌との鑑別を要する腺癌類似良性病変

1) 部分萎縮 Partial atrophy
図3:部分萎縮の例。細胞の丈を核がほぼ占めるまで細胞質が減少している。著しくN/C比が高いわけではない。低倍率で高分化腺癌の整った腺管と類似して見える。上皮2相性が不明瞭で、間質中に不規則に分布して浸潤性を想起させる。しかし、注意深く見れば、間質内に散在するといっても腺管全体に既存の構築を破壊する勢いが読み取れず、悪性と確定できるほどの高度な細胞異型ともいい難い。
図3:部分萎縮の例

ジョンズ・ホプキンス大学のEpsteinらのもとにコンサルテーションのために送られた前立腺針生検4046検体中に見いだされ、腺癌ならびに腺癌の前駆病変とされるhigh-grade PINを除くと、最も頻度が高かった病変は、部分萎縮 (partial atrophy)であるという7)。概していえば、前立腺の萎縮腺管においては、細胞質が少なく、しばしば癌細胞よりもN/C比が高くなり、低倍率では他の臓器で癌巣を観察したときのように、核が密在する好塩基性の領域として認識される。これに対し部分萎縮は、文献8などで「比較的少量の細胞質を伴う良性前立腺腺管で、低倍率では完全萎縮と異なり好塩基性の領域と認識されるに至らないものの、細胞の背丈を核がほぼ占め、周囲の非癌腺管と同様の細胞質を有する」と定義されている。

すなわち部分萎縮腺管は、細胞の丈を核がほぼ占めるまで細胞質が減少しているが、著しくN/C比が高いわけではない。低倍率で淡明な細胞質が目について高分化腺癌の整った腺管と類似して見える。さらに、比較的高い密度で分布するか不規則に分布し(図3)、一見したときに増殖性や浸潤性を想起させやすいのに加え、HE標本では2相性が不明瞭に見え(図3)、核小体をしばしば伴う。よって、腺癌との鑑別に苦慮することがある。さらに、Herawiらは、高分子量サイトケラチンが部分萎縮腺管の13%において完全に陰性で、alpha-methyl-CoA racemase (P450s)が79%に陽性であったと報告しており7)、免疫組織化学染色はしばしば鑑別の助けにならないとされる。実際、非癌小葉間で密在するあるいは間質内に散在する部分萎縮腺管を見ると、浸潤性増生と迷うことがある。しかし、注意深く見れば、間質内に散在するといっても腺管全体に既存の構築を破壊する勢いが読み取れないことが多い(図3)。またHerawiらは、(a)部分萎縮腺管を良性と判断する重要な手がかりとして、apicalな細胞質がごく少量で細胞の背丈を核がほぼ占めるのに対し、lateralには細胞質を残していること、(b)lateralな細胞質は周囲の非癌腺管のそれと同様に見えること、(c)癌腺管の内腔面が平滑であるのに対し、部分萎縮では凹凸があること、を挙げている。(a)(b)は鑑別のクルーとして有用であるが、(c)については凹凸が常に明瞭とは限らない。核小体の出現に悩まされることがあるとはいえ、悪性と考え得る十分な核異型を呈しているかどうか、よく観察することが大切である。


2) 完全萎縮 Complete atrophy
図4:完全萎縮の例。(A)全周性に細胞質が乏しく、核密度が極めて高いため、低倍率では好塩基性の領域と認識される。小葉全体が完全萎縮に陥ることが多いので、低倍率での所見は迫力があるように見える。(B)拡大を上げれば核は均一で異型性がなく、習熟すれば良性と判断することは比較的容易である。
図4:完全萎縮の例

腺癌を疑われてコンサルテーションとなる標本で見られる良性腺管として最も頻度が高いのが部分萎縮であることが報告されている7)。これには共感するところであるが、実際に初心者の場合は完全萎縮(complete atrophy)腺管よりなる小葉全体を腺癌であると信じてマーキングしてくる頻度が高い。完全萎縮では構成細胞の細胞質が乏しいために核細胞質比が極めて高く、低倍率では好塩基性の領域と認識される(図4A)。病理総論的にはN/Cの増大による好塩基性の増強は悪性を示唆する所見として知られているため、小葉全体に及ぶ完全萎縮は低倍率では初心者には迫力があるように見えると考えられる。拡大を上げれば核は均一で異型性を欠き(図4B)、その特長に習熟すれば良性と判断することは比較的容易である。


3) 腺症 Adenosis
図5:腺症の例。結節中心にある乳頭状、あるいはluminal undulationsを伴うやや大きく容易に良性と認められる腺管(*)から自然に移行するように、結節辺縁に小型腺管が認められ、時に腺腔形成不良腺管のようにも見える(矢印)。高倍率で注意深く観察し、結節辺縁の小型腺管における核異型が顕著とはいえず、むしろ細胞像が周囲の非癌腺管におおむね類似していることを確認すれば、結節の全体像と合わせて腺症と結論できる。
図5:腺症の例

図6:硬化性腺症の例。腺管の間で豊富な紡錘形細胞を認め、これらに半ば押しつぶされるように虚脱、変形した小腺管(矢印)が多数見られる。前立腺癌が線維芽細胞ないし筋線維芽細胞に富む固有の間質を誘導することはまれなため、紡錘形細胞に富む間質が存在すること自体がやや奇異だと気づくことが重要である。これらの紡錘形細胞は筋上皮細胞に分化した基底細胞であると考えられており、免疫組織化学的にp63などが陽性となることが知られている。
図6:硬化性腺症の例

腺症(Adenosis)は、transition zone(TZ)に好発する。近年はTZ領域からも多数の針生検標本が採取されるようになったので、生検診断中に遭遇することは少なくない。淡明な細胞質を持つ腺管が著しく密在する境界の比較的明瞭な結節性病変であるから、生検標本中に結節全体が含まれていなくても、スクリーニングで拾い上げることは容易である。腺症は、歴史的にはatypical adenomatous hyperplasia(AAH)と称され、現在では前癌病変ではないことが明らかで、単に腺症と呼ぶのが適切である9)。しばしば、良性腺管に特徴とされる類澱粉小体を入れている。しかしながら、中倍率では腺管密度が著しく高いため、back-to-back様の構造異型を呈するように見えることがある9)。これが真の構造異型でないことは容易に見抜ける。しかし、腺症の結節中心にある乳頭状、あるいはluminal undulationsを伴うやや大きな容易に良性と認められる腺管から自然に移行するように、結節辺縁に小型腺管が認められるときに腺腔形成不良腺管のようにも見える場合は、浸潤性増生かと迷うことがある(図5)。この結節辺縁の一見崩れて見える小型腺管は、時には多少の核異型すら呈することがある。しかし高倍率で注意深く観察し、結節辺縁の小型腺管における核異型が顕著とはいえず、むしろ細胞像が周囲の非癌腺管におおむね類似していることを確認すれば、結節の全体像と合わせて腺症と結論できる。HE像で2相性が不明瞭に見えることがあっても、免疫組織化学的に結節辺縁にも散在性に基底細胞を認めるので、結節全体を良性と判断する根拠にすることができる。


硬化性腺症の場合は、腺管周囲のしばしば浮腫状の間質内に極めて豊富な紡錘形細胞を認め、これらに半ば押しつぶされるように変形した小腺管が多数見られる(図6)。乳腺でよく経験するように、当該領域全体の腺管・細胞密度が増加し華々しい所見に見える。しかし、前立腺癌が線維芽細胞に富む線維形成性間質反応を誘導することはまれであるので、紡錘形細胞に富む間質が存在すること自体がやや腺癌としては奇異だと気づくのが重要である。紡錘形細胞は筋上皮の性格を獲得した基底細胞であるため、p63などのマーカーが陽性となる。従って、免疫染色の助けを借りて基底細胞の介在が保持されていることを確認できれば、悪性と誤ることはない。


4) 基底細胞過形成 Basal cell hyperplasia
図7:基底細胞過形成の例。腺管内では基底細胞の増生により細胞が数層まで重積しているように見える。腺癌の場合は基底細胞を欠如しているため、腫瘍細胞の核が重積することは少ない。
図7:基底細胞過形成の例

基底細胞過形成は、胎児の前立腺に類似した前立腺腺管から構成されるもので、結節性過形成のスペクトラムに含まれると考えられている。実際、TZ領域に好発するので、adenosis同様、近年の採取コア数の増加で針生検にもしばしば観察されるようになった。低倍率で好塩基性が目立ち、小腺管・小胞巣状は時に篩状をなすので、腺癌と鑑別を要する。文献10によると、核小体出現・粘液貯留・核分裂像・クリスタロイドの出現等から、コンサルテーションに回される機会があるという。腺腔内に石灰化を伴うこともある。実態は文字通り、腺管内において基底細胞が数層にも重積して増生しているもので、異型に乏しい均一な細胞像が確認できれば、判断に迷うことは少ない(図7)。腺癌を構成する単一腫瘍腺管では基底細胞過形成で見られるような核の重積が見られることはむしろ例外的である。


5) 篩状過形成 Cribriform hyperplasia
図8:篩状過形成の例。一見したとき篩状構築をとるように見えるが、実際は間質が入り込んで2相性が保持され、細胞異型も全く認められない。
図8:篩状過形成の例

篩状過形成を示す良性腺管は、低倍率で一見したとき篩状構築をとるように見え、cribriform patternのPINや、改訂Gleason分類4)では主としてGleason's grade 4とされるcribriform patternの癌腺管と類似した印象を受ける。実際には、一見篩状と見える構築内に間質が入り込んで、2相性が保持されている。細胞異型も全く示さないので、一見したときの構築に惑わされて悪性と考えてはならない(図8)。


6) 免疫染色などにおいて腺癌との鑑別を要するとされる既存固有腺管

文献7では、ジョンズ・ホプキンス大学のEpstein等に寄せられたコンサルテーションで、partial atrophyに次いで頻度が高かった前立腺癌のbenign mimickerは、“crowded glands”としている。この用語は十分なコンセンサスを得ていないが、文献 7においては、adenosisとの診断には至らない程度の腺管密度の増加を示す明瞭な結節をつくらない病変と定義されている。さらに、コンサルテーションに寄せられた前立腺癌のbenign mimickerの第3位の頻度を示したのは“benign glands”で、専門家が鏡検すると特段の細胞異型・構造異型を認めない腺管とされる。これらは、高分子量ケラチン (34βE12)・p63陰性あるいはAMACR陽性の免疫組織化学的所見をもって、コンサルテーションに送られたものと推測される。

HE染色標本の萎縮腺管等において、基底細胞が認識しにくいことがしばしばあり、逆に腺管にまとわりつくように見える扁平な線維芽細胞等が、あたかも基底細胞のように見えることがある。2相性が保持されているかどうかの判断が難しい場合、免疫組織化学的検討は有用である。しかし過信は禁物で、免疫染色標本の鏡検にあたっては、まず確実に良性と見られる腺管において高分子量ケラチン(34βE12、CK5/6)、p63が全周性に陽性であることを確認する必要がある。34βE12染色は、標本の状態によっては正常腺管に必ずしも良好な染色性が得られない。また、TZ領域ではp63と比較して陽性率が低い傾向がある。このような標本で、免疫染色を頼りに2相性の有無を判断するのは妥当性を欠く。また、陰性の判断についても、1腺管のみで全周性に陰性であったとしても有意ととるべきではない。PIN、partial atrophyや腺症などでは構成腺管においてしばしば基底細胞が不連続に存在し、薄切面の加減で全周性に陰性となるものが混在することがまれではない。基底細胞を欠如する腺管と基底細胞を伴う腺管が隣接する場合には前者も基底細胞を有する腺管と解釈する。ある領域の一定数以上の腺管が陰性となっている場合にのみ陰性と判断することが望ましい。HE像で悪性を疑いつつ判断に迷っている病変領域全体が陰性であれば信頼性が高まるが、HE染色標本を観察して熟慮することなく免疫染色標本を見ることは禁物である。AMACR(P504S)も、確実に正常と見られる腺管に完全に陰性であることを確認してから鏡検を始めるべきである。それでも、先のcrowded glandsの67%にAMACRが陽性であるとの報告もある7)。セカンドオピニオン症例を鏡検していると、前立腺生検の34βE12・p63・AMACRの免疫染色を機械的にオーダーしているのかと推測される施設があるが、このような方針では異型がない腺管を、腺癌と鑑別を要する病変として拾い上げてしまう可能性や、PINを過剰診断する可能性があり、まずHE像に基づく鑑別についてよく修練すべきと考えられる。


7) 精嚢・射精管・central zoneの腺管等の正常構造
図9:Central zoneの腺管。正常でも概して複雑な起伏を持っており、peripheral zoneの通常の鋸歯状腺管とは異なる印象を受けるが、PINととってはならない。Central zoneにおいては、PINの診断に慎重を期さなければならない。
図9:Central zoneの腺管

図10:末梢神経と接する正常腺管(perineural indentation)。低倍率で一見すると癌の神経周囲浸潤のように見えるが、2相性が明らかで細胞異型も欠如している。近傍に癌かどうか迷う異型腺管等がある場合、この所見に影響されて過剰な診断をしてはならない。
図10:末梢神経と接する正常腺管(perineural indentation)

採取コア本数の増加した今日の前立腺針生検標本に、精嚢腺が含まれる機会は少なくない。太い導管から放射状に分枝する精嚢腺の構築全体が針生検標本に含まれることは少なく、生検コアの端に少量の精嚢腺が出現する確率が高い。接線方向に切れた腺管群として出現する場合は、その細胞異型から一見して腺癌と鑑別を要する病変のように認識することがある。しかし、高分化腺癌には通常見られない程の濃染するbizarreな核が、luminal undulationsを伴う分枝状腺管に出現する不釣り合いに気づいて、リポフスチン顆粒をさがせば、判断に迷うことはない。前立腺全摘標本等において、精嚢腺を日ごろよく観察することも助けになりうる。同様に、射精管も前立腺全摘標本等において意識して観察しておくとよい。


射精管を取り囲むcentral zoneの腺管は正常でも概して複雑な起伏を持っており、生検標本に出現したときperipheral zoneの通常の鋸歯状腺管とは異なる印象を受けるが、これは有意な所見ではない(図9)。Central zoneの腺管は、腺癌と鑑別すべき良性腺管というより、むしろPINと誤りやすいと認識されている。また、前立腺では、正常腺管が末梢神経と密に接していることがしばしばあり(perineural indentation)、低倍率で一見すると癌の神経周囲浸潤のように見える(図10)。癌を疑う異型腺管の近傍に図10のような所見が出現すると、当該異型腺管の診断に影響する可能性があるが、注意して観察すれば図10は正常腺管であるから当然2相性が明らかで細胞異型も欠如している。これに影響されて、近傍の異型腺管に過剰な診断をしてはならない。


3. 腺癌と鑑別を要する前癌病変、PIN

図11:High-grade PINの核異型(撮影倍率20倍)。Epsteinは、観察者間の診断の一致をはかるためとして、PINの腺管内に対物20倍レンズでも核小体が認識できるときにhigh-gradeとすることを提唱している(文献13)。
図11:High-grade PINの核異型(撮影倍率20倍)

図12:Flat patternのPINの例(左上)。核異型を伴う1層の上皮細胞で裏装される。
図12:Flat patternのPINの例(左上)

図13:Tufted patternのPINの例。核異型を伴う上皮細胞の重層が顕著な領域 (矢頭)とそうでない領域(矢印)が交互に存在し合う、最も普通に認められるPIN。核異型に加え、腺管の外周が平滑であることが、鋸歯状を呈する過形成性腺管との鑑別の要点となる。
図13:Tufted patternのPINの例

図14:Micropapillary patternのPINの例。異型上皮の重層によるtufts(ふさ)が、血管茎を欠いたまま長く延長している。
図14:Micropapillary patternのPINの例

図15:Cribriform patternのPINの例。構造異型の最も複雑なPIN。内部の核が辺縁部の核よりも小さい点が篩状パターンを示す腺癌との区別の一助となる。
図15:Cribriform patternのPINの例

図16:Signet-ring featureをとるPINの例。PINのまれな亜型のひとつ。印環細胞様に見えるが、細胞質内空胞には実際には粘液は入れていない。
図16:Signet-ring featureをとるPINの例

図17:導管癌の例。1層ないし重層した円柱状腫瘍細胞が、乳頭状ないし管状乳頭状に増生する。生検標本で本腫瘍の一部が採取されると、high-grade PINの構築と類似して見えることがある。
図17:導管癌の例

図18:High-grade PIN with adjacent small atypical glands(PINATYP)ならびにそれと区別すべき病変。 (A)High-grade PIN(*)の周囲に、同等程度の細胞異型を示す小異型腺管(矢印)が集蔟する像。EpsteinらはこれをPINATYPと呼んでいる。(B)浸潤癌腺管(矢印)に隣接するhigh-grade PIN(*)。2相性の喪失や腺腔形状が不整であることから、パネル(B)のみを見ても矢印部分が浸潤癌の一部であることを疑いうると思われるが、この病変は前立腺全摘標本からとったもので、実際、矢印部分に連続してGleasonスコア7の大きな浸潤癌が観察されていた。PINATYPを定義した文献15には、このような「明らかな浸潤癌腺管に隣接するhigh-grade PINは、PINATYPと混同してはならない」と書かれている。
図18:High-grade PIN with adjacent small atypical glands(PINATYP)ならびにそれと区別すべき病変

かつては、AAH(adenosis)とPINが前癌病変と見なされていたが、現在ではAAHと腺癌の合併頻度が特に高くないことより、AAHは前癌病変であるとは考えられていない2-3)。これに対して、PINは腺癌と峻別すべき病変ではあるものの、前癌病変であり、将来的に再検によって癌が検出されるリスクを示す所見として認識されるべきものと理解されている。ただし、上皮内癌との関係については議論のあるところで、両者の区別についてはコンセンサスが得られていない。


PINは、「腺癌に類似した核腫大・核小体明瞭化を伴う既存の導管内あるいは腺房内における細胞増殖巣であるが、腺癌と異なり基底細胞層を保持しているもの」と理解される。1969年にMcNealがintraductal dysplasiaとの言葉で同様の概念を初めて提唱したが、1986年にMcNealとBostwickの共著の論文で浸潤癌の予測因子となることを示して広く受け入れられるようになり11)、1989年の前立腺のdysplasia に関するワークショップ(Bethesda)で公認されて、PINという言葉が市民権を獲得した。一般的には、既存の導管を裏装する上皮細胞の核が重層化し、細胞密度が高く暗調に見えるので低倍率で目にとまり、中倍率にすると腺管の起伏が複雑で、高倍率にしたとき核腫大・クロマチン増量・核小体明瞭化を認めることでPINと診断しうる。はじめMcNealらは、核異型の程度でPIN1ないしPIN3の3段階のgradingを試みた。この際、核分裂像の数はgradingの基準に組み入れられていないことに注意を要する12)。その後、PIN2とPIN3の区別の再現性が低いことから、PIN1をlow-grade PIN、PIN2とPIN3をあわせてhigh-grade PINとするとのコンセンサスが得られた。Low-grade PINにおいては、核腫大を認めるが、核に大小不同があり、クロマチン増量は軽度で、核小体は小さいとされる。High-grade PINは、大小不同が少なく一様に大型の核を持ち、クロマチン増量は高度で、腺癌と同程度の大きな核小体を持つとされる。すなわちlow-grade PINとhigh-grade PINの区別に重要なのは核小体である。後に浸潤癌を発生するリスクが高いことを予測する能力を高めるための、核小体の径の閾値を定めたデータは十分でない。Epsteinは、観察者間の診断の一致をはかるためとして、対物20倍レンズでも核小体が認識できるときにhigh-grade PINとすることを提唱している13)(図11)。概していうと、核異型が明らかに高度な場合のみにhigh-grade PINといい、迷った場合はlow-grade PINにとどめておくのが無難と思われる。Low-grade PINの前癌病変の意義は明らかでなく、臨床医の誤解と過剰な追加検査を招かないためにも、low-grade PINを生検所見として記載しないことが推奨される。


High-grade PINは4つに分類される13)。すなわち、核異型を伴う1層の平坦な上皮細胞で裏装されるのがflat pattern(図12)、核異型を伴う上皮細胞の重層が顕著な領域とそうでない領域が交互に見られるものはtufted pattern(最も普通に認められるhigh-grade PIN(図13)、tufts(ふさ)が血管茎を欠いたまま延長したものはmicropapillary patternと呼び(図14)、最も複雑なものがcribriform PINとされる(図15)。High-grade PINのこれら4つの構築パターンはPINを認識するのに有用だが、生物学的な意義に差がない、すなわち再生検時に腺癌を見いだす率に差はないとされている。他方では、low-grade PINがmicropapillary patternやcribriform patternをとることはまずないともいわれている。ほかに、PINのまれなvariantとしてsignet-ring feature (印環細胞様に見えるだけで、実際に粘液は入れていない。すなわち、淡明な胞体内空胞を伴う異型細胞で構成される。図16)、small cell neuroendocrine feature、 mucinous cell metaplasia(杯細胞様の上皮細胞が混じる)、mucinous feature (内腔に粘液が貯留し、内腔は拡張して、しばしば1層の上皮細胞で裏装される)、inverted nucleiを伴うもの(極性が逆転していて、基底細胞側ではなく、内腔に面した側の細胞密度が高い)、squamous differentiationを伴うもの、Paneth cell-like neuroendocrine differentiationを伴うもの等、教科書には多く列記される。しかし、これらの多くは頻度が低く、仮に初めて遭遇しても定義どおりの所見を持った“異型腺管”と認識することは可能で、腺癌との鑑別に困る可能性も高くないと推測する。あえていうならば、mucinous featureを伴う場合、内腔に粘液を入れることが気になるが、腺管は拡張しており、Gleason's grade 3の内腔に粘液を入れた小型単純腺管とは判別可能と考えられる。PINの好発部位はperipheral zoneである。Transition zoneにも認められることがあるが、central zoneにおける頻度は極端に少ない。Central zoneでは、正常腺管の起伏が顕著で一見上皮細胞が重層しているように見えることがあるが、central zoneで安易にPINと診断することが戒められているのはこのためである(図9)。そして、high-grade PINと腺癌はともに細胞異型が高度であってperipheral zoneを好発とするため、鑑別を要するとされる。ただし厳密にいえば、high-grade PINは、標本上では既存の腺房内での増殖性変化であり、断続的と見えても定義上基底細胞を残しているので、注意深く観察すれば、浸潤癌との区別はおおむね可能である。基底細胞は時に不連続となることがあるので注意が必要である。


従って、high-grade PINの最も重要な鑑別対象となる腺癌は、理論的に基底細胞を残していると理解される上皮内腺癌ならびに腺癌の管内進展像、cribriform patternを示す浸潤腺癌(Gleason's grade 3)である。最も頻度の高いtufted patternの場合は、上皮内癌のうち特に導管癌(尿道近くに初発するがperipheral zoneに波及することもある)に類似して見える(図17)。Cribriform patternのhigh-grade PINとcribriform patternの腺癌の鑑別は時に困難であるが、実際にはcribriform patternを示す腺癌が既存の導管と同様の大きさ、輪郭を示すことはまれで、大型不整形の篩状胞巣を形成することの方がはるかに多い。実際、Gleason's grade 3のcribriform patternとして記載したものの多くがPINであった可能性が指摘されている。両者の鑑別には免疫染色が有用だが、鑑別が困難な病変をEpsteinらは異型篩状病変atypical cribriform lesion と呼んでいる。Cribriform patternに面皰型の壊死があれば、定義上Gleason's grade 5の腺癌となる。前述のごとくhigh-grade PINと上皮内腺癌は共通した細胞像を示すため、両者の異同については議論のあるところで、必ずしもコンセンサスは得られていない。しかし、基底側から内腔側に向かっていわゆるmaturationがPINの特徴であるのに対して、核異型が顕著で、かつその程度が管内で一様となっており、壊死を伴うものを上皮内癌とする研究者もいる。Epsteinらはこのように定義された上皮内癌が生検コアで認められた場合にはPINと比べて浸潤癌が共存するリスクが高いため、積極的に精査を進める必要があるとしている13)。High-grade PINでは、重層の頂上や篩状構築の中心部の核が小さく類円形であるのに対し、基底細胞側でよりクロマチン増量が顕著であり、これを良性の本質であるmaturationの表れと考え、鑑別の根拠にすべきともいう。ただし、maturationが標本上で常に読み取れるとは限らない。厳密にいうと、前立腺全摘標本で、high-grade PINとその近くの浸潤癌の位置関係、進展範囲を確認し、浸潤腺癌と上皮内腺癌あるいは上皮内進展巣との位置関係・進展範囲を確認することしか、high-grade PIN・上皮内腺癌、浸潤腺癌の上皮内進展を真に区別する方法は存在しないというべきかもしれない。このような、相互関係の情報が得られない生検標本での鑑別は極めて困難である。


以上のように、生検標本におけるhigh-grade PINと上皮内腺癌の組織学的な判別には限界があるので、これらの判別が困難であることを所見文に述べた上で診断名を“Atypical glands”などとし、再生検や癌の可能性を考慮したwatchful waitを試みる等泌尿器科医の判断・対処に委ねるのが妥当な場合がある。別の発想の対処方法としては、子宮頸部のcervical intraepithelial neoplasm(CIN)や膵のpancreatic intraepithelial neoplasm(PanIN)などに倣い、上皮内病変を前癌病変と上皮内癌に分けることは困難であるとして、ともにPIN3と表現する立場がある。現に上皮内癌の可能性を暗に含めてPIN3との言葉が用いられる場合があるが、前立腺においてはCIN3やPanIN3のように、上皮内癌を内包するとの明確なコンセンサスには至っていない14)。High-grade PINの近傍に存在する腺癌はPINの突出(outpoucnhing)との判別がしばしば困難となる。Epsteinらは、これをhigh-grade PIN with adjacent small atypical glands (PINATYP)と呼んでいる。PINATYPには(a) high-grade PINから基底膜を保持したままbuddingした異型上皮が接線方向に切れたもの、(b) 浸潤小腺管を近傍に伴うhigh-grade PINが含まれる15)。High-grade PINとその周囲の異型腺管の細胞異型度は、同等である(図18A)。もちろん、high-grade PINがGleason's grade 3以上の明らかな浸潤癌と隣接している場合(図18B)は、PINATYPには含まれない。


生検でhigh-grade PINのみが認められた場合、再生検で腺癌を見いだす確率は20〜30%程度であるが、初回生検時の診断がPINATYPであった場合、再生検で腺癌を見いだす確率は50〜60%程度で、病理医が癌であることを強く疑いながらごく少量である等の理由で断定的な診断を下さなかったいわゆる“atypical glands”後の再生検で腺癌を見いだす確率(50〜60%)に、匹敵するとされる15)。ただし、PINATYPの中では、high-grade PINの見られるコアの数、high-grade PINあるいはその周囲の小型異型腺管の数、high-grade PINと周囲の小型異型腺管との間の距離などは、再生検で腺癌を見いだす確率とは有意に相関しない。臨床医は実際にはPSA値を基に経過観察や再生検のスケジュールを立てる場合があると推測されるが、病理医の立場ではPINATYP全例について臨床医に再生検を求めるべきであると考えられている。


4. 結語

前立腺癌はさまざまな良性腺病変のほか、前癌病変であると考えられているhigh-grade PINと正しく区別されなければならない。部分萎縮は癌と誤認される危険がある代表的な変化のひとつであるが、安易に免疫染色に依存しないことと、決して過剰な診断をしないことが肝要である。“Atypical glands”という診断を減らす努力は必要であるが、小さな生検標本ではASAPとしかいいようがない場合があることをわきまえるべきであると考える。High-grade PINと上皮内癌の関係、PINATYPとして観察される可能性があるPINと共存する異型小腺管の意義は議論のあるところであるが、生検標本から読み取られた情報を本稿で概説した診断基準に照らし合わせて解釈し、臨床医に理解してもらう必要がある。そのためには臨床医と日ごろからコミュニケーションをよくし、十分に所見の説明をすることが肝要と思われる。バイオマーカーと先端技術全盛の今日にあっても、鑑別診断の人智を尽くすには、HE染色標本をなるべく多数、そして長時間かけて丁寧に見ることによって経験を蓄積するのが唯一の道筋と思われる。


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