胸腺腫瘍の病理診断−針生検標本を含めて

更新日:2011年01月11日
掲載日:2011年01月11日
はじめに  1.胸腺上皮性腫瘍の病理診断  2.縦隔の悪性リンパ腫  3.縦隔の胚細胞腫瘍  4.その他の間葉系腫瘍  5.胸腺腫瘍の病理診断に有用な免疫組織化学  6.組織パターンから見た縦隔腫瘍の鑑別診断  7.生検標本に対する病理診断の進め方  まとめ  参考文献

はじめに

胸腺は前および上縦隔に位置し、Tリンパ球の成熟に重要な役割を担っている。胸腺からは胸腺上皮性腫瘍をはじめ、悪性リンパ腫や胚細胞腫瘍などが発生する。胸腺上皮性腫瘍は細胞異型の有無により、胸腺腫と胸腺癌に分類される。胸腺神経内分泌腫瘍はWHOの分類1では胸腺癌の中に含まれているが、日本の縦隔腫瘍取扱い規約2では、胸腺癌から独立させ、胸腺上皮性腫瘍の1つとして分類されている。胸腺腫と胸腺癌には非常に多くの組織型がある。また、縦隔には胸腺以外にも甲状腺、食道、気管、気管支、大動脈弓とその分枝、上大静脈、迷走神経や交感神経幹、リンパ節等、多くの組織や臓器が存在し、それらを発生母地とする腫瘍も非常に多彩である。さらに、それぞれの疾患について治療法が異なる。そのため、胸腺腫瘍の病理診断を行うには、胸腺上皮性腫瘍の組織像を理解し、鑑別診断として胸腺および縦隔に発生する多くの腫瘍や腫瘍様病変を知っておく必要がある。


本稿ではまず胸腺上皮性腫瘍の分類と病理所見および縦隔に発生する悪性リンパ腫と胚細胞腫瘍について概説し、病理診断に有用な免疫染色と組織パターンから見た鑑別診断、縦隔腫瘍の針生検標本に対するアプローチの仕方について記述したい。


1. 胸腺上皮性腫瘍の病理診断

胸腺腫は細胞異型に乏しく、正常胸腺への分化傾向が見られる。正常胸腺への分化を示す組織所見として、分葉状構造、非腫瘍性未熟Tリンパ球の混在、血管周囲腔(perivascular space)、豊富なリンパ球の中に疎なリンパ球の領域が認められる髄質分化(medullary differentiation)等がある。胸腺腫は卵円形および紡錘形腫瘍細胞からなるA型胸腺腫と類円形および多角腫瘍細胞からなるB型胸腺腫、それらの混在するAB型胸腺腫に分類され、B型胸腺腫はさらにその腫瘍細胞の形態と随伴する未熟Tリンパ球の多寡により、B1、 B2、 B3型に細分類される。それ以外にもまれないくつかの組織型がある。胸腺腫の予後因子としては臨床病期が重要であるが、最近では組織型も独立した予後因子の1つと考えられており1,3、正確な病理組織診断の必要性が報告されている。これに対し、明らかな細胞異型が見られる胸腺上皮性腫瘍を胸腺癌とし、その多くは扁平上皮癌である。胸腺癌は通常正常胸腺への分化を認めず、未熟Tリンパ球は混在しない。

1) 胸腺腫 Thymomas
(1) A型胸腺腫 Type A thymoma
図1 A型胸腺腫
ロゼット様構造を示すことがある。
図1 A型胸腺腫

異型性に乏しい紡錘形から卵円形腫瘍細胞が充実性あるいは束状に増殖する。時に花むしろ状や血管周皮腫様構造、ロゼット様構造、腺管様構造を示し、間葉系腫瘍や神経内分泌腫瘍と鑑別を要することがある(図1)。随伴リンパ球は少数で、未熟Tリンパ球は少なく、ほとんどが成熟Tリンパ球である。腫瘍内には線維性隔壁は通常認めない。腫瘍の大部分は被包化され、臨床的に良好な経過をとるが、まれに腫瘍細胞に異型性を示し浸潤傾向を示すこともある。


(2) AB型胸腺腫 Type AB thymoma
図2 AB型胸腺腫
紡錘形腫瘍細胞とリンパ球の豊富な領域が混在する。
図2 AB型胸腺腫

リンパ球の乏しいA型胸腺腫の像に未熟Tリンパ球の豊富な領域が混在したもので、腫瘍内に薄い線維性隔壁をしばしば形成する。リンパ球の豊富な部分では紡錘形腫瘍細胞に加え、小型の多角腫瘍細胞を認める。同じ結節内にこれら2つの領域が混在している場合と、全く別々の結節を形成している場合がある(図2)。A型胸腺腫と同様に被包化されていることが多いが、A型胸腺腫に比べ多少浸潤傾向が見られる。


(3) B1型胸腺腫 Type B1 thymoma
図3 B1型胸腺腫
リンパ球が豊富で弱拡大では腫瘍細胞が不明瞭であるが、リンパ球よりやや大型の核を持つ腫瘍細胞(矢印)がほぼ均等に分布する。左上に髄質分化を認める。
図3 B1型胸腺腫

豊富なリンパ球の中に明るいクロマチンと小型のあまり目立たない核小体を認める核を有するやや大型の類円形から多角腫瘍細胞が、弱拡大では不明瞭なほどに散在して見られる(図3:矢印)。サイトケラチンに対する免疫染色では腫瘍細胞が網目状にほぼ均等に配列している。びまん性に増殖するが、薄い線維性隔壁で分葉状になる傾向がある。この型の胸腺腫の特徴像として髄質分化がしばしば見られ、まれにこの中にハッサル小体を伴う。


(4) B2型胸腺腫 Type B2 thymoma
図4 B2型胸腺腫
リンパ球はやや少なくなり大型多角腫瘍細胞が所々で集簇して見られる。
図4 B2型胸腺腫

リンパ球成分を伴い、胞体の明るい多角腫瘍細胞よりなるが、B1型胸腺腫と比較してリンパ球成分はより少なく、弱拡大で腫瘍細胞が明らかである。B1型胸腺腫と同様に線維性隔壁を伴い分葉傾向がある。腫瘍細胞はB1型胸腺腫より大型で、核も大きく明瞭な核小体を持つものが多い(図4)。リンパ球が疎となり、腫瘍細胞が集簇する領域も見られる。小血管周囲にリンパ球とリンパ液を含む血管周囲腔が見られ、その腔を腫瘍細胞が柵状に取り囲む像もよく認められる。髄質分化はあまり見られない。B1型胸腺腫より浸潤傾向が強く、まれに遠隔臓器転移を示すこともある。


(5) B3型胸腺腫 Type B3 thymoma
図5 B3型胸腺腫
やや不整な核を持つ多角腫瘍細胞が敷石状に配列する。血管周囲腔が特徴的である。
図5 B3型胸腺腫

B2型胸腺腫よりリンパ球成分が少なく、ほとんど腫瘍性上皮細胞よりなる領域も見られる。随伴するリンパ球は未熟Tリンパ球で、TdTなどの免疫染色で容易に認識できる。腫瘍細胞は多角細胞であるが、B2型胸腺腫の腫瘍細胞と比べ核がやや小型で、よりクロマチンに富み、核小体はあまり目立たないことが多い。また、細胞境界も一般的に明瞭で、表皮様所見(epidermoid feature)を示し、敷石状に配列する(図5)。時に核の大小不同や核縁の不整など異型性や核分裂を腫瘍細胞に認めることがある。腫瘍は分葉状に発育し、結節周囲には硝子化した結合織を認めることが多い。腫瘍内では血管周囲腔もよく見られる所見で、血管周囲腔周囲に腫瘍細胞の柵状配列が明らかである。生物学的悪性度は胸腺腫の中では最も高く、まれに遠隔臓器転移を示す。


(6) リンパ性間質を伴う小結節性胸腺腫 Micronodular thymoma with lymphoid stroma
図6 リンパ性間質を伴う小結節性胸腺腫
豊富なリンパ球の中に紡錘形腫瘍細胞からなる大小の胞巣を多数認める。
図6 リンパ性間質を伴う小結節性胸腺腫

A型胸腺腫腫瘍細胞と類似性を示す紡錘形から卵円形の腫瘍細胞が、種々の大きさの充実性胞巣を形成し増殖しており、腫瘍胞巣周囲には豊富なリンパ球を認める(図6)。それらリンパ球のほとんどはBリンパ球であり、胚中心を伴うリンパ濾胞も認められる。加えて、各腫瘍胞巣周囲に、少数の未熟Tリンパ球が帯状に存在する像も認められる。


(7) 化生性胸腺腫 Metaplastic thymoma
図7 化生性胸腺腫
多角腫瘍細胞の充実性の胞巣とそれを紡錘形腫瘍細胞が取り囲む2相性を示す。
図7 化生性胸腺腫

多角腫瘍細胞が充実性の胞巣を形成する成分と、その胞巣成分周囲を紡錘形腫瘍細胞が束状となり取り囲む様に増殖する成分からなる、2相性を示す腫瘍である(図7)。多角腫瘍細胞には角化傾向が見られ、しばしば核の不整や腫大、核クロマチンの増加を認めるが、核分裂像はまれである。腫瘍の辺縁に少数の未熟Tリンパ球を認めることがあるが、腫瘍胞巣内には未熟Tリンパ球の浸潤は認められない。


(8) その他の胸腺腫

顕微鏡的胸腺腫microscopic thymoma, 硬化性胸腺腫sclerosing thymoma, 脂肪線維腺腫lipofibroadenomaなどの報告があるが、非常にまれである。


2) 胸腺癌 Thymic carcinoma
図8 胸腺癌(扁平上皮癌)
異型を示す腫瘍細胞が角化を伴い充実性に増殖する。
図8 胸腺癌(扁平上皮癌)

腫瘍細胞に明らかな細胞異型を認めるもので、多くの組織型に分類されるが、扁平上皮癌が最も頻度が高い。別の臓器に発生する腫瘍と同様に、大型多角腫瘍細胞が充実性ないし索状胞巣を形成し増殖しており、角化や細胞間橋を伴う(図8)。胸腺腫にみられるような正常胸腺への分化は示さず、時にリンパ球や形質細胞の浸潤が目立つことがあるが、未熟Tリンパ球浸潤は認められない。また、胸腺腫にしばしば合併する重症筋無力症などの自己免疫疾患も見られない。胸腺原発の扁平上皮癌と診断するには必ずほかの臓器(特に肺)からの転移の可能性を否定する必要がある。しかし、腫瘍胞巣間に介在する硝子化を伴う広い線維間質組織は、胸腺の扁平上皮癌でしばしば見られる特徴的な所見である。そのほかの組織型については、WHO組織分類1や縦隔腫瘍取扱い規約2を参照していただきたい。


3) 神経内分泌腫瘍 Neuroendocrine tumors
図9 非定型的カルチノイド
類円形腫瘍細胞が索状、ロゼット状、リボン状、胞巣状に増殖し、壊死や核分裂像を認める。
図9 非定型的カルチノイド

神経内分泌腫瘍とは、神経内分泌能を有する腫瘍細胞よりほぼ構成される胸腺上皮性腫瘍の総称であり、定型的カルチノイドtypical carcinoid、非定型的カルチノイドatypical carcinoid、大細胞神経内分泌癌large cell neuroendocrine carcinoma、小細胞癌small cell carcinomaに分類される。組織所見は肺原発の腫瘍と同様であり、定型的カルチノイドと非定型カルチノイドとの区別は、壊死を欠くことと核分裂像が高倍率10視野あたり2個未満であることと定義され、胸腺のカルチノイドの多くは非定型的カルチノイドである(図9)。腫瘍細胞には、免疫染色によりクロモグラニンやシナプトフィジン、CD56などの神経内分泌形質の発現を認める。胸腺の扁平上皮癌でも一部に神経内分泌形質の発現を見ることがあるが4、神経内分泌腫瘍と診断するには、特徴的な組織所見に加え、多くの腫瘍細胞に神経内分泌のマーカーが陽性となることが必要である。


4) 混合型胸腺上皮性腫瘍 Combined thymic epithelial tumors
図10 B2/B3混合型胸腺腫
左にB2型胸腺腫、右にB3型胸腺腫を見る。
図10 B2/B3混合型胸腺腫

胸腺腫、胸腺癌、胸腺神経内分泌腫瘍のそれぞれの組織型のうち、2つ以上の組織型成分がそれぞれ明確な領域を示し混在する腫瘍をいう。この中ではB1/B2混合型胸腺腫やB2/B3混合型胸腺腫(図10)の頻度が高い。


2. 縦隔の悪性リンパ腫

縦隔に発生する悪性リンパ腫にはホジキンリンパ腫、T細胞性リンパ芽球型リンパ腫、縦隔原発大細胞型B細胞性リンパ腫、節外性粘膜関連濾胞辺縁帯リンパ腫(MALTリンパ腫)などがある。


1) ホジキンリンパ腫 Hodgkin lymphoma
図11 ホジキンリンパ腫
A:一部に壊死を伴い大型異型細胞が充実性に増殖する。B:腫瘍細胞の浸潤と軽度核の腫大した胸腺上皮が角化を伴い反応性に増殖する。
図11 ホジキンリンパ腫

縦隔のホジキンリンパ腫のほとんどが結節硬化型で、若い女性に好発する。周囲の胸腺に非腫瘍性の多房性嚢胞を見ることがある。組織所見は線維組織で分けられた結節性病変で、炎症性背景を伴い特徴的なReed-Sternberg細胞やHodgkin細胞、lacuna細胞を見る。免疫染色でCD30, CD15が陽性となる。時に、これらの大型の腫瘍細胞がシート状に増殖し(syncytial variant)5、胸腺上皮性腫瘍や大細胞型B細胞性リンパ腫、精上皮腫と鑑別を要することがある(図11A)。また、ハッサル小体の上皮が軽度の核異型を示し、角化を伴いながら反応性に増殖することがあり、胸腺上皮性腫瘍と間違わないように注意が必要である(図11B)。


2) T細胞性リンパ芽球型リンパ腫Precursor T-lymphoblastic lymphoma (TLBL)
図12 T細胞性リンパ芽球性リンパ腫
周囲の結合組織内に腫瘍細胞が一列になって浸潤する。
図12 T細胞性リンパ芽球性リンパ腫

Tリンパ球への分化が決定したリンパ芽球由来の悪性腫瘍で、小児〜若年者に多い。リンパ節や節外に腫瘍を形成することが多く、節外では胸腺が最も多い。多数のtingible body macrophageにより星空像 (starry sky pattern)を示すこともある。腫瘍細胞はN/C比が高く、小型から中型の円形から卵円形、時に切れ込みのある核を持つ腫瘍細胞がびまん性に増殖する。T細胞性リンパ芽球型リンパ腫の診断を行う上で、B1型胸腺腫との鑑別が問題となる。T細胞性リンパ芽球型リンパ腫では、腫瘍周囲の結合組織内や血管周囲に細胞が一列になって浸潤する像が認められるが(図12)、このような像は、B1型胸腺腫では認められず、両者を鑑別する上で重要な組織像となる。


3) 縦隔原発大細胞型B細胞性リンパ腫Primary mediastinal large B-cell lymphoma (PMLBCL)
図13 縦隔原発大細胞型B細胞性リンパ腫
大型不整形の核と明るい胞体を持つ腫瘍細胞が線維性間質により胞巣状に区画されている。
図13 縦隔原発大細胞型B細胞性リンパ腫

女性に優位に発症し、20〜30歳代に多いが、より年配者にも見られる。背景に線維化を伴い、大型で不整形の核と明るく豊富な胞体を持つ細胞がびまん性に増殖し、しばしば線維性間質により胞巣状に区画され、上皮性腫瘍に類似する組織像を示すことがある(図13)。このような症例の場合、大細胞型B細胞性リンパ腫と上皮性腫瘍とは免疫染色により鑑別が可能である。縦隔原発の大細胞型B細胞性リンパ腫の中には、上皮性腫瘍類似形態を示すものが存在することを忘れてはならない。


4) 節外性粘膜関連濾胞辺縁帯リンパ腫MALT lymphoma
図14 節外性粘膜関連濾胞辺縁帯リンパ腫
明るい胞体を持つ小型リンパ球が単調に増殖し、ハッサル小体にリンパ上皮病変を形成する。
図14 節外性粘膜関連濾胞辺縁帯リンパ腫

反応性のリンパ濾胞の周囲に小型から中型の不整な核と明るい胞体を有する、胚中心のcentrocyteに類似したcentrocyte-like cellや、明るい胞体がより目立つmonocytoid B cellが増殖するリンパ腫である。腫瘍細胞はハッサル小体や胸腺上皮に浸潤し、リンパ上皮病変(lymphoepithelial lesion)を形成する(図14)。免疫染色では腫瘍細胞にはB細胞のマーカーが陽性となる。


5) その他
図15 濾胞樹状細胞腫瘍
紡錘形腫瘍細胞が花むしろ状に増殖し、リンパ球が混在する。
図15 濾胞樹状細胞腫瘍

縦隔に発生するその他の血液リンパ球系の腫瘍として、未分化大細胞リンパ腫anaplastic large cell lymphoma(ALCL) 顆粒球肉腫granulocytic sarcoma, 濾胞樹状細胞腫瘍follicular dendritic cell tumor(FDC)などがある。ALCLはB3型胸腺腫や胸腺癌と、FDCは紡錘形腫瘍細胞とリンパ球が混在し、A型胸腺腫と鑑別を要する像を示すことがあり、免疫染色を行い診断を確定する必要がある(図15)。


3. 縦隔の胚細胞腫瘍

縦隔原発の胚細胞腫瘍は、性腺に発生する胚細胞腫瘍と同様の組織所見を示す。縦隔で胚細胞腫瘍の発生を見た場合には必ず、精巣や卵巣、後腹膜からの転移の可能性を考える必要がある。縦隔に発生する胚細胞腫瘍の特徴として、成人では圧倒的に男性に多く、小児では奇形腫は男女比がほぼ同様で、卵黄嚢腫瘍は女児に多い1,6


1) 奇形腫 Teratoma

三胚葉のうち二胚葉以上の成分からなる腫瘍で、成人の正常組織のようにすべて成熟した成分からなるものを成熟奇形腫mature teratoma、胎児成分を含むものを未熟奇形腫immature teratomaと呼ぶ。成熟奇形腫はしばしば多房性となり、縦隔の成熟奇形腫は膵組織を含むことが多い。未熟奇形腫は症例も少なく、その悪性度については確立された見解はない。


2) 精上皮腫Seminoma
図16 精上皮腫
豊富な明るい胞体を持つ腫瘍細胞が敷石状に増殖し、周囲にリンパ球と形質細胞の浸潤と肉芽腫の形成を見る。
図16 精上皮腫

腫瘍細胞は大型類円形で、明瞭で不整な核小体と類円形核、豊富な明るい胞体を有し、敷石状に増殖する。細胞境界は明瞭である(図16)。精巣の精上皮腫と比べ、核異型や核分裂像を示すことが多い。線維性間質にはリンパ球と形質細胞の浸潤と肉芽腫の形成が見られ、しばしば多房性胸腺嚢胞を伴う。免疫染色でPLAP, CD117, D2-40, OCT4が陽性になり、cytokeratinも局所的に陽性所見を見る。


3) 胎児性癌 Embryonal carcinoma
図17 胎児性癌
大型の核と明瞭な核小体を有する未分化な腫瘍細胞が管状や乳頭状、充実性に増殖する。
図17 胎児性癌

壊死の目立つ腫瘍で、大型の核と明瞭な核小体、明るい胞体を持つ未分化な細胞が、管状、乳頭状、胞巣状あるいは充実性に増殖する(図17)。細胞境界は不明瞭である。奇形腫と合併することが多い(teratocarcinomaと呼ぶことがある)。若年男性の縦隔の未分化な腫瘍を見たときは、常に胎児性癌の可能性を考える必要がある。免疫染色で、cytokeratin, PLAP, CD30, OCT4が陽性となる。


4) 卵黄嚢腫瘍 Yolk sac tumor

非常に多彩な組織像を呈する腫瘍で、内皮様あるいは立方状細胞が乳頭状、網状、管状、充実性あるいは肝様の増殖形態を示す。また、特徴的なSchiller-Duval bodyや好酸性硝子球がしばしば見られる。免疫染色でAFPが陽性になる。


5) 絨毛癌 Choriocarcinoma

縦隔原発の絨毛癌では、他臓器原発の絨毛癌に比べ、高度に出血性で灰白色充実性の腫瘍組織を肉眼的に見ることは少ない。多核の合胞性および単核の細胞性栄養膜細胞類似の腫瘍細胞よりなる2細胞構造が見られる。免疫染色でhCGが陽性となる。


6) 混合型胚細胞腫瘍 Mixed germ cell tumor

上記の胚細胞腫瘍が種々の程度に混在するものをいう。


7) 胚細胞腫瘍から発生する体細胞型腫瘍 Germ cell tumor with somatic-type malignancy

胚細胞腫瘍に癌腫や肉腫が発生したもので、混合型胚細胞腫瘍に起こることが多い。急性白血病などの造血器腫瘍が起こることもある。


4. その他の間葉系腫瘍

縦隔に発生する間葉系腫瘍としては、神経芽腫neuroblastoma, 神経節芽腫ganglioneuroblastoma, 神経節腫ganglioneuroma, 神経鞘腫schwannoma, 悪性末梢神経腫瘍malignant peripheral nerve sheath tumor (MPNST), 傍神経節腫paraganglioma, 脂肪腫lipoma, 血管腫hemangioma, グロムス腫瘍glomus tumor, 類上皮血管内皮腫epithelioid hemangioendothelioma, 血管肉腫angiosarcoma, 孤在性線維性腫瘍solitary fibrous tumor (SFT), 脂肪肉腫liposarcoma, 滑膜肉腫synovial sarcoma, 平滑筋肉腫leiomyosarcoma, 悪性黒色腫malignant melanomaなどがある。別の臓器に発生する腫瘍と組織所見や免疫染色所見は同じである。


5. 胸腺腫瘍の病理診断に有用な免疫組織化学

図18 胸腺上皮性腫瘍におけるp63の免疫染色
B1型胸腺腫で陽性腫瘍細胞がほぼ均等に分布して見られる。
図18 胸腺上皮性腫瘍におけるp63の免疫染色

胸腺腫瘍の鑑別診断には免疫染色が非常に有用である7。胸腺腫瘍の診断によく使用される抗体を表1に示す。胸腺腫には上皮性の腫瘍細胞と非腫瘍性の未熟Tリンパ球が混在して見られるので、それらの確認のために、cytokeratinとCD1aやCD99, TdTが有用である。


p63は正常の胸腺上皮や胸腺腫(図18)、胸腺の扁平上皮癌に陽性となる。P63は基底細胞や筋上皮細胞、重層扁平上皮やそれらの細胞由来の腫瘍などに陽性となり、特異性に乏しいが、胸腺上皮性腫瘍としばしば鑑別が必要になる精上皮腫や胎児性癌、悪性中皮腫、悪性黒色腫には陰性で、鑑別に役立つ8


CD5, CD117, bcl-2は胸腺の扁平上皮癌で陽性となる9-11。ただし、局所的にしか染まらないこともあり、これらのマーカーを組み合わせて使用することが望ましい。CD5とCD117はB3型胸腺腫でも一部陽性になることがあり、bcl-2はA型胸腺腫で陽性になることがあるので注意が必要である。CD5は他臓器の扁平上皮癌では陰性で、転移性腫瘍との鑑別にも有用である12。胸腺腫瘍で鑑別に難渋する代表的なものにB3型胸腺腫と扁平上皮癌があるが、CD5やCD117, bcl-2とCD1a, CD99あるいはTdTの組み合わせにより鑑別可能である。最近では、GLUT-1も扁平上皮癌とB3型胸腺腫の鑑別に有用との報告がある13


縦隔の悪性リンパ腫と胚細胞腫瘍は別の部位に発生した腫瘍と免疫組織化学的な発現形式は同じであるが、縦隔の精上皮腫はしばしばcytokeratinが局所的に陽性となる14


表1 胸腺腫瘍の診断に有用な抗体

上皮性マーカー  
Cytokeratin 胸腺上皮性腫瘍はAE1/AE3でよく染まる。その他CK5/6, CK14, CK19も良好な染色性を示す。
EMA A型とAB型胸腺腫の腺腔を形成する細胞や紡錘形細胞に陽性。B3型胸腺腫にも陽性となり、陰性のB2型との鑑別に有用とされるが、局所的に陽性になるのみ。胸腺癌も陽性。
P63 正常胸腺上皮、胸腺腫、胸腺癌の核に陽性。胸腺上皮性腫瘍の確認に有用。
未熟T細胞マーカー  
TdT 核に陽性となる。
CD1a 胸腺上皮性腫瘍に存在する樹状細胞にも陽性になる。
CD99 未熟T細胞以外にも種々の細胞に陽性となる。
胸腺癌マーカー  
CD5 やや陽性率が低いが、別の臓器の扁平上皮癌では陰性。B3型胸腺腫でも一部陽性になることがある。
CD117 B3型胸腺腫でも一部陽性になることがある。精上皮腫でも陽性。
Bcl-2 A型胸腺腫でも陽性となる。
神経内分泌マーカー  
Chromogranin A 神経内分泌顆粒と反応。胸腺癌でも一部に陽性。
Synaptophysin 神経細胞のシナプト小胞蛋白と反応。胸腺癌でも一部に陽性。
CD56 神経細胞、NK細胞などに陽性となる。胸腺癌でも一部に陽性。
胚細胞腫瘍マーカー  
D2-40 リンパ管内皮細胞のマーカーであるが、精上皮腫のよいマーカーでもある。胸腺腫の一部にも陽性となる。
PLAP 精上皮腫に陽性。その他の胚細胞腫瘍にも陽性となることがある。
OCT4 精上皮腫と胎児性癌の核に陽性。
CD30 胎児性癌に陽性。ホジキンリンパ腫やALCLにも陽性。
AFP 卵黄嚢腫瘍に陽性。
hCG 絨毛癌に陽性。
リンパ球系マーカー 通常の悪性リンパ腫の診断に使用される各種マーカー

6. 組織パターンから見た縦隔腫瘍の鑑別診断

表2 縦隔腫瘍の鑑別診断

Spindle cell pattern

  • Type A thymoma
  • Solitary fibrous tumor
  • Schwannoma
  • Spindle cell type carcinoid tumor
  • Follicular dendritic cell tumor
  • Inflammatory myofibrobalstic tumor
    (Sarcomatoid pattern)
  • Thymic sarcomatoid carcinoma
  • Synovial sarcoma
  • Sarcomatoid mesothelioma
  • Leiomyosarcoma
  • Malignant peripheral nerve sheath
  • tumor

Lymphocyte predominant pattern

  • Type B1 thymoma
  • Lymphoblastic lymphoma
  • MALT lymphoma
  • Lymphoid hyperplasia
    (Small cell tumors)
  • Small cell carcinoma
  • Ewing/PNET
  • Neuroblastom
  • Rhabdomyosarcoma

Polygonal cell pattern

  • Type B3 thymoma
  • Thymic carcinoma
  • Thymic neuroendocrine tumors
  • Diffuse large B-cell lymphoma
  • Anaplastic large cell lymphoma
  • Hodgkin lymphoma (syncytial variant)
  • Epithelioid mesothelioma
  • Seminoma
  • Embryonal carcinoma
  • Granulocytic sarcoma
  • Epithelioid leiomyosarcoma
  • Malignant melanoma
  • Metastatic carcinoma

Inflammatory pattern

  • Sclerosing / fibrosing mediastitis
  • Inflammatory myofibroblastic tumor
  • Desmoplastic mesothelioma
  • Hodgkin lymphoma
  • Seminoma
  • Metastatic carcinoma

1) 紡錘形細胞からなる腫瘍
図19 紡錘形細胞からなる病変
A:A型胸腺腫 B:SFT C:神経鞘腫 D:FDC
図19 紡錘形細胞からなる病変

A型胸腺腫では腫瘍細胞が紡錘形形態を呈することが多く、しばしば間葉系腫瘍とよく似た組織所見を示す。鑑別診断にはSFT, 神経鞘腫, FDCなどがあり(図19A-D)、A型胸腺腫にロゼット様構造が見られるときはカルチノイドとの鑑別も必要となる(図1)。A型胸腺腫とこれら腫瘍との鑑別には免疫染色が有用であり、SFTはCD34とbcl-2が陽性、神経鞘腫はS100蛋白が陽性、FDCはCD21とCD35が陽性となる。


紡錘形腫瘍細胞の異型が強い場合は、胸腺肉腫様癌thymic sarcomatoid carcinoma15、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、滑膜肉腫、MPNSTなどの悪性腫瘍も、鑑別を要する腫瘍として考慮する必要がある。


2) 大型類円形・多角細胞からなる腫瘍
図20 類円形・多角細胞からなる病変
A:B2型胸腺腫 B:B3型胸腺腫 C:胸腺癌 D:カルチノイド E:精上皮腫 F:胎児性癌 G:PMLBCL H:ALCL I:ホジキンリンパ腫(syncytial variant) J:悪性中皮腫 K:悪性黒色腫 L:異型A型胸腺腫
図20 類円形・多角細胞からなる病変

大型類円形、多角細胞形態を示す腫瘍として、胸腺上皮性腫瘍ではB2およびB3型胸腺腫と胸腺癌、神経内分泌腫瘍がある。これら胸腺上皮性腫瘍と鑑別を要する腫瘍として、精上皮腫、胎児性癌、PMLBCL、ALCL、ホジキンリンパ腫(syncytial variant)、悪性中皮腫、悪性黒色腫などが挙げられる。図20に示すように、これらの腫瘍はいずれも上皮様組織形態像を示し、胸腺上皮性腫瘍と鑑別が難しいことがある。しかし、それぞれの腫瘍は異なる免疫形質性状を有しており、免疫染色がこれら腫瘍の鑑別診断に役立つ。


また、まれにA型胸腺腫腫瘍細胞に核の腫大や核クロマチンの増加、明瞭な核小体、核分裂像などの細胞異型を認めることがある(図20L)。このようなA型胸腺腫は、B3型胸腺腫との鑑別が必要となるが、A型胸腺腫では、血管周囲腔が不明瞭で、非上皮性腫瘍様の細胞配列やロゼット様構造、腺管形成、個々の細胞を取り囲むような豊富な細網線維が見られる。


3) 小型リンパ球が優位の腫瘍
図21 小型リンパ球優位の病変
B1型胸腺腫(A)vs TLBL(B)(サイトケラチン免疫染色)
B1型胸腺腫では網目状の陽性腫瘍細胞を認める。TLBLでは残存する胸腺上皮が索状に見られることがあるが、網目状の増殖は認めない。
MALTリンパ腫(C) vs 胸腺リンパ濾胞過形成(D)
MALTリンパ腫では濾胞辺縁帯の単調な広がりが見られ、リンパ濾胞過形成では濾胞辺縁帯の広がりはなく、胸腺組織の基本的な構造は保たれている。
図21  小型リンパ球優位の病変

B1型胸腺腫では、上皮性腫瘍細胞が疎に配列しているため、上皮性腫瘍細胞が目立たず、リンパ球成分優位の組織像を示す。このようなことより、小型リンパ球からなる腫瘍、特にTLBLとの鑑別が重要となる。リンパ球の細胞形態や免疫染色のみでは、胸腺腫に随伴する未熟Tリンパ球か、あるいはリンパ腫細胞か鑑別するのは困難である。しかし、B1型胸腺腫ではしばしば髄質分化を認め(図3)、線維性の被膜や隔壁もよく見られるが、縦隔の脂肪組織にリンパ球がびまん性に浸潤する所見や血管周囲や血管壁へのリンパ球の浸潤(図12)は認められない。このような組織像を認めた場合は、B1型胸腺腫よりはTLBLを示唆する所見である。また、cytokeratinに対する免疫染色で、B1型胸腺腫では網目状の上皮性腫瘍細胞が見られる(図21A)が、TLBLでは上皮細胞の増殖は認めない。この所見は、B1型胸腺腫と診断する上で有用であるが、注意を要することは、上皮性腫瘍細胞とリンパ腫内に残存する既存胸腺上皮細胞とを混同しないことである(図21B)。


MALTリンパ腫は反応性濾胞の辺縁帯で小型リンパ球が増殖するが(図21C)、リンパ球はcentrocyte-like cellやmonocytoid B cellの形態を示し、免疫染色でもB細胞のマーカーが陽性となる。MALTリンパ腫は、胸腺リンパ濾胞過形成との鑑別が必要となるが(図21D)、リンパ濾胞過形成ではリンパ濾胞の被殻は明瞭で、濾胞辺縁帯の単調な増殖パターンが見られず、多少圧排されているものの胸腺の基本的な構造は保たれている。この点が、MALTリンパ腫と反応性濾胞過形成とを鑑別する上で重要な所見となる。しかし、時に鑑別が困難で遺伝子検索が必要になることもある。


そのほかにも、胸腺腫との鑑別を考える上で、異型リンパ球様の小型腫瘍細胞形態を示す肉腫や癌腫など、いわゆるsmall round cell tumorが挙げられるが、多くの場合は免疫染色等により鑑別が可能である。


4) 炎症パターンを示す病変
図22 硬化性縦隔炎
線維化とリンパ球を主体とした炎症細胞浸潤を認める。明らかな異型細胞は認めない。
図22 硬化性縦隔炎

線維化と多彩な炎症細胞浸潤を示すもので、硬化性縦隔炎sclerosing mediastinitis16, 炎症性筋線維芽細胞性腫瘍inflammatory myofibroblastic tumor (IMT)17がある。


硬化性縦隔炎(図22)は後腹膜線維症や硬化性胆管炎などの多巣性線維硬化症やIgG4関連硬化性疾患18との関連性が指摘され、閉塞性静脈炎も認める。硬化性縦隔炎では、壊死や肉芽腫の形成は認めないが、認められた場合は結核などの感染症との鑑別を考慮する必要がある。


IMTは小児や若年者に多く見られる腫瘍性病変で、縦隔にも発生する。リンパ球や形質細胞などの炎症細胞と膠原線維とともに筋線維芽細胞様の紡錘形腫瘍細胞が束状あるいは渦巻状に増殖する。


ホジキンリンパ腫や精上皮腫、悪性中皮腫、転移性腫瘍などにも炎症細胞の浸潤を伴う組織像がしばしば認められ、硬化性縦隔炎やIMT類似像を示すことがある。よって、炎症パターンを伴う腫瘍の診断を行う場合は、常に硬化性縦隔炎やIMTとこれら腫瘍との鑑別診断の必要性を念頭において、標本を観察しなければならない。


7. 生検標本に対する病理診断の進め方

図23 生検標本
A:硝子化を伴う線維組織内にリンパ球の小集簇巣を認める。B:リンパ球と大型の細胞が混在して見られる。C:リンパ球はTdT陽性の未熟Tリンパ球である。D:大型の細胞はcytokeratin陽性で、未熟Tリンパ球の量と腫瘍細胞の形態からB2型胸腺腫と診断した。
図23 生検標本

近年、CTガイド下等で採取された縦隔腫瘍の針生検標本を見る機会が増加している。小さい生検標本の場合、特徴とされる組織所見は見られないこともあり、HE染色のみでは確定診断に至らず、免疫染色が必要なことが多い。追加で薄切標本を作製すると、貴重な組織が無くなってしまう可能性もあり、あらかじめ免疫染色用の標本を作製しておくと便利である。


縦隔腫瘍の生検診断では、日常の病理診断においても同様であるが、臨床情報が非常に大切である。年齢、性別、腫瘍の部位、画像所見、重症筋無力症などの自己免疫疾患の有無、血清AFPやhCG値などの情報でかなり診断を絞り込むことができる。


次に、生検標本の組織所見から、上述した腫瘍の組織形態像より、縦隔腫瘍を紡錘形腫瘍細胞からなるもの、大型多角腫瘍細胞からなるもの、小型リンパ球が優位のもの、炎症パターンを示す4型に分けることができる。


4型に言及する前に、未熟Tリンパ球と上皮性腫瘍細胞の存在の重要性について述べたい。縦隔腫瘍で最も頻度が高いのは胸腺腫で約4割を占め、基本的には胸腺腫を中心に考えていくことになる。リンパ球が見られる場合はたとえ少数であっても必ずTdTやCD99などを用いた免疫染色で、未熟Tリンパ球が存在するか否か、確認する必要がある。未熟Tリンパ球があり、そこに上皮細胞が混在していれば、胸腺腫と診断できる。その後、上皮性腫瘍細胞の形態と未熟Tリンパ球の量で胸腺腫の組織型亜型を決定する(図23)。なお、上皮細胞については、胸腺腫の上皮性腫瘍細胞か、退縮した胸腺組織の上皮細胞か鑑別を必要とするが、通常、退縮胸腺組織は直接脂肪組織に取り囲まれているのに対し、胸腺腫の場合は被膜や隔壁など線維組織に接していることが多く、これらの組織像が両者の鑑別に有用である。


1) 紡錘形腫瘍細胞よりなる腫瘍(表2)
図24 生検標本(紡錘形細胞パターン)
A:紡錘形腫瘍細胞の増殖を見る。B:Cytokeratin陽性でA型胸腺腫と診断した。ただし、AB型胸腺腫の一部を見ている可能性もあるので、コメントとして付け加えることにしている。
図24 生検標本(紡錘形細胞パターン)

紡錘形細胞からなる病変の場合は、必ずcytokeratinを用いた免疫染色を行い、胸腺腫か、間葉系腫瘍か、あるいはFDCか鑑別を行う必要がある。紡錘形腫瘍細胞よりなるA型胸腺腫は、間葉系腫瘍と思われるような組織所見を示すことも珍しくない(図24)。


2) 大型多角腫瘍細胞よりなる腫瘍(表2)
図25 生検標本(多角細胞パターン)
A、 とE、Fはともに多角腫瘍細胞からなる腫瘍で、HE標本のみでは鑑別が困難である。C、GはCD117でともに陽性、D、Hはp63で、A-Dは胸腺の扁平上皮癌、E-Hは精上皮腫と診断した。
図25 生検標本(多角細胞パターン)

大型多角腫瘍細胞からなる腫瘍の場合は、鑑別すべき腫瘍も多く、HE標本だけでは確定診断は非常に困難である。古典的な免疫染色パネル(ケラチン、ビメンチン、S100蛋白、LCA)がおおまかな鑑別に有用である。また、精上皮腫はしばしばcytokeratinが陽性となり、CD117も陽性であるので、同じ染色性を示す胸腺癌との鑑別に特に注意が必要である(図25)。胸腺癌で陽性となるCD5とbcl-2, p63は精上皮腫では陰性である。また、D2-40は精上皮腫で陽性であるが、正常胸腺の被膜下上皮と胸腺腫の一部でも陽性となる13,19


3) 小型リンパ球が優位の腫瘍(表2)
図26 生検標本(小型リンパ球パターン)
A、B:線維組織内に密なリンパ球の集簇を認め、強拡でもリンパ球以外の成分が明らかではない。C:リンパ球はCD99陽性で、D:Cytokeratinで網目状の陽性腫瘍細胞を認める。B1型胸腺腫と診断した。
図26 生検標本(小型リンパ球パターン)

小型リンパ球が優位の組織パターンを示す場合は、B1型胸腺腫とTLBL等のリンパ腫との鑑別が重要であるが、生検標本では特徴的な髄質分化やリンパ球の間質への浸潤などが不明瞭なことも多い。免疫染色でリンパ球はどちらも未熟Tリンパ球の形質を示すが、cytokeratinで胸腺腫は腫瘍細胞の網目状の配列が明らかとなる(図26)。ただし、TLBLでも正常の胸腺上皮が取り残されているので、腫瘍性の上皮と間違わないことが大事である。


4) 炎症パターンを認める腫瘍(表2)
図27 生検標本(炎症パターン)
A:線維組織内にリンパ球を主体とし、少数の好酸球を伴う炎症細胞浸潤を認める。B:大型の核と明瞭な核小体を持つ異型細胞を少数認める。C:CD30陽性で、ホジキンリンパ腫と診断した。
図27 生検標本(炎症パターン)

炎症パターンを認めた場合は、腫瘍性病変に伴った変化か炎症性病変か判断が難しい。異型細胞の存在の有無を注意深く判定することが大切である(図27)。硬化性縦隔炎は非常にまれであり、ほかの病変の可能性を検討した後の除外診断となる。そのため、異型細胞の存在を完全に否定し、硬化性縦隔炎と確定診断するためには、再検が必要なこともある。


まとめ

胸腺上皮性腫瘍について、特に胸腺腫を中心に病理学的所見と免疫組織化学的な特徴と胸腺および縦隔に発生する胸腺腫以外の腫瘍との鑑別について主に記述した。
胸腺上皮性腫瘍は多彩な組織像を呈し、それぞれの組織型について、鑑別すべき多くの縦隔病変が存在する。生検標本では、縦隔病変のごく一部しか採取されないことより、病理診断には困難を極めることが多い。しかし、既述した基本となる4型の組織パターンに基づいて病理診断を進めていくことが重要であり、正しい最終診断を導き出す上では、免疫染色は非常に有用なツールとなる。


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立山 尚(春日井市民病院 病理部)


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