悪性リンパ腫に関連した疾患を検索するための材料の処理法と免疫組織化学

更新日:2003年10月17日
掲載日:2003年10月17日

東京医科大学病理学教室 向井 清

概説  1.感染症への配慮  2.生検リンパ節の選択と摘出  3.検査室への搬送  4.病理組織標本の作製

概説

病理診断一般に言えることであるが、生検あるいは摘出組織の固定、包埋、薄切、染色といった組織の作製過程が形態の保持に大きな影響を与える。
特にリンパ腫の診断においては、癌腫におけるような組織構築と細胞像の組み合わせで診断を行うことは少なく、診断の決め手は細胞像のみとなることが多い。このため、形態の保持が何より大事であり、このため組織の摘出時からそれ相応の注意が必要となる。


1. 感染症への配慮

リンパ節腫大の原因は腫瘍のみではない。感染症が疑われる場合は微生物の検出のために培養を行うなどの配慮が必要となる。また、白血化の検討やあるいは血清学的検索も必要となる場合もあるので、リンパ節生検を行う際には採血も同時に行われるべきであろう。


2. 生検リンパ節の選択と摘出

腫大しているリンパ節が1個の場合は選択の余地はないが、多くのリンパ節が腫大している場合はどのリンパ節をサンプルするかは重要である。鼡径リンパ節は過去の炎症の瘢痕化やあるいは下肢の外傷の影響などの修飾が加わっていることが多く、腋窩リンパ節も脂肪化が目立つこともある。最適なのは頚部リンパ節で特に最大のリンパ節では病変が成熟していて診断に適当である。一領域に複数のリンパ節が腫大している場合はいくつかを同時に摘出すると、一つのリンパ節から得られるよりも多くの情報が得られることがある。リンパ節摘出に際しては被膜を傷つけず、リンパ節を完全な形で摘出することが必要である。また、強く押さえたりするとリンパ球自体が壊れるので丁寧に扱う必要がある(図1)。


3. 検査室への搬送

リンパ節が摘出されたならできるだけ早急に病理検査室に搬送し、必要な材料を採取しできるだけ早急に固定することが必要となる。搬送の際に乾燥しないように無菌の生食を浸したガーゼで覆うとよい。WHO分類に代表される造血器腫瘍の診断や分類には単にHE染色標本と銀染色などの限られた通常の特殊染色のみでは不十分なことが多い。ホルマリン固定パラフィン包埋組織を用いた免疫染色でもかなりのことはわかるが、固定の状況によって必ずしも染色結果が一定しない傾向もある。したがって、採取された組織を全てホルマリン固定するのではなく、必要に応じて免疫染色や遺伝子解析が可能となるような材料の保存が望ましい。 また、摘出されたリンパ節を割を入れずに単にホルマリンに入れるのみでは被膜はよく固定されて収縮し、表層の細胞は圧迫されて形態が変化する。そして中心部にはホルマリンが十分に浸透せず不十分な固定となってしまう(図2図3図4図5)。
これを防ぐためには検査室に搬送されたら直ちに最大割面が出るように割を入れ、ホルマリン固定用組織を採取し、さらに新鮮凍結、感染症が疑われる場合は培養、電顕、フローサイトメトリィ用検体などを取り分ける必要がある(図6)。大きめのリンパ節では最大割面をリンパ節の長軸方向でhilusを含む面で作成する。厚さは2-3mmで残った組織を各種の検索用に採取する。リンパ節が小さい場合は長軸に直角に中心部の切片をホルマリン固定用とし、平行な割を必要な数加えて各種検索用の検体をする。


4. 病理組織標本の作製

日常の病理診断には質のよいHE染色標本が必須である。臨床試験に登録された症例の病理標本を集めて適格性を確認するために複数の血液病理医による病理中央診断を行なっている。多施設からの標本を観察していると固定、包埋、薄切そして染色の出来具合は施設により大きく異なる。

病理診断が病理医によりばらつく原因の大きな割合を占めるのは標本の質の問題である。 そのうち特に問題となるのは固定の不良と薄切の技量である。 固定液としてZenker液、B5などリンパ節用の特別の固定液を推奨する向きもあるが、形態の保持、免疫染色への応用、扱いの容易さなどを考えるとホルマリンは十分に優れた固定液であると考えられる。 重要なことは前述したように2-3mmの組織片を切除後できるだけ早く固定することである。 ホルマリンは新鮮な溶液を用い、室温で12時間から24時間以内の固定時間で十分であり、それ以上の固定は免疫染色の染色性を損なうおそれがある(図7)。 組織の自己融解を防ぐために4℃で固定することも考えられるが、そこまでは必要ないと思われる。 包埋においてはパラフィンが十分に浸透するように完全な脱水を行なう必要がある。 このあたりは病理検査技師の方々の協力が必須となる。パラフィンの温度が高すぎて組織に熱変性が加わると、ヘマトキシリンの染色性が低下して、非常に診断が困難な標本となるので注意が必要である。 厚さの均一な2-4μmの切片の薄切は質のよいブロックが出来ていれば、それほど困難とはならない(図8図9)。 いずれにしても各過程にちょっととした注意を払っていれば、質のよい標本の作製が可能となると考えられる。 染色に関しては薄からず、濃からずということが重要であるが、このあたりは病理検査技師の方の協力を得て、自分が見やすい染色をしていただくようにするとよいと思われる。 免疫染色では抗原賦活化法、使用する抗体、染色手技などまだ標準化されていない部分が多くある。 それぞれの検査室で各抗原に応じて最適の方法を確立するより以外に、現状では改善の余地はないと思われる。 自動免疫染色機も普及し始めたが、まだ機器は高価である。標準化のためには自動化は必須になると思われるが、それまでは免疫染色になれた技師を養成し、1例1例十分な注意を払って染色を行ってもらうことが、診断にとっても重要である。


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