悪性リンパ腫の診断:とくにpitfallについて

更新日:2003年10月17日
掲載日:2003年10月17日

岡山大学大学院医歯学総合研究科 病理・病態学専攻 吉野 正

概説  各疾患とその鑑別  参考文献

概説

2001年新WHO分類が上梓されここ当分血液病理のスタンダードとなることが期待される。
これは1994年のいわゆるREAL分類改訂版ともいうべき位置づけであり、従来のリンパ腫の分類と異なり、ホジキン病が包含され、非ホジキンリンパ腫ではB細胞性とT/NK細胞系の明瞭な区分がなされるとともにMALTリンパ腫などの新しい疾患単位が加えられた。これによりリンパ腫診断をより適切に分類することが可能になるであろう。
表1に自験例のリンパ腫例を示した。


リンパ腫の診断を下すとき、リンパ節性か否かでかなり診断を絞ることができることがおわかりいただけるであろう。さて、わたくしどもの教室でリンパ腫が疑われたあるいは要鑑別であると考えられた症例は、1989年から2001までに全体で合計5343例あったが、そのうちリンパ腫であったのは3236例で60.5%である。従って、大体悪性リンパ腫に関連した外科病理材料5例のうち2例は非悪性リンパ腫であり、リンパ腫の細分類の前に、非リンパ腫例との鑑別が重要であることを示している。


表2にリンパ腫に関わる鑑別を3つのカテゴリーにわけて示した。
最初の群は良悪性の鑑別で治療を要するかどうかで重要である。
次の群は他の悪性腫瘍との鑑別である。 治療法の進歩によりリンパ腫、骨髄性白血病、癌などでかなり使用する薬剤等が異なっており、"round cell sarcoma"といった回答は臨床の要求レベルを満たすことができない。
最後の群は主としてリンパ腫間の組織分類に関する鑑別である。後述するように各種マーカーの開発と検索手段の進歩により以前よりは明らかに診断精度が上がってきているが、それでもどの診断項目に属するかわからない症例がみられる。 このような場合たとえば、B細胞性で核が大きくなく増殖能が低い場合は、Low-grade B-cell lymphoma というような診断を(暫定的に)返すことは合理的である。
自験例の非リンパ腫例ではいわゆる反応性リンパ節過形成が最も多く、ついで癌の転移、菊池病、猫ひっかき病、顆粒球肉腫、伝染性単核球症、Castleman病、皮膚病性リンパ節症、結核、サルコイドーシスなどの順となっている。この中では菊池病、伝染性単核球症が若年優位、癌転移、結核、皮膚病性リンパ節症が高齢者に多い傾向があった。
このセッションでは、そのような鑑別診断に重点をおいて、とくにpitfallになりやすい疾患の実例を示すが、鑑別のもととなる免疫組織学的検討をする場合の注意点、低悪性度B細胞性リンパ腫、T(NK)細胞性リンパ腫、ホジキンリンパ腫については別のセッションが設けられている。重複する部分もあるが詳細はそれらの各項目を参照いただきたい。


各疾患とその鑑別

1. 前駆新生物(precursor neoplasms)に関わるpitfall

リンパ芽球性リンパ腫が疑われたら、TdT染色を積極的に選択する必要がある。 鑑別上問題になるのはユーイング肉腫などである。 CD45陰性、CD20 (L26)陰性、MIC2陽性、グリコ-ゲンを有するようなB細胞性リンパ芽球性リンパ腫があり、 CD79aやTdTを選択しないとユーイング肉腫と誤る可能性がある。
(図1は組織像強拡大像、図2はMIC2、図3はその症例のTdTである。)


2. 濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、MALTリンパ腫に関わる鑑別診断

これら三疾患はリンパ腫細胞が胚中心内のsmall cleaved cellsに似た形態をとりやすく、HEのみでは鑑別できない症例も多い。 濾胞性リンパ腫は十二指腸に発生する例外と除くと95%以上がリンパ節性、マントル細胞リンパ腫は大部分リンパ節性と節外性(消化管が多い)が3:1の比率であり、MALTリンパ腫の属する濾胞辺縁帯リンパ腫はほとんどが節外性であり、ひとつの鑑別点になる(表1)。

詳細は他項目にゆずるが、免疫組織学的鑑別点を、パラフィン材料で適用可能な抗体について表3にまとめた。濾胞性リンパ腫は、CD10とbcl 2が重要であるが、前者は約70%で陽性である。bcl 2は他の低悪性度リンパ腫との鑑別にはならない。濾胞性リンパ腫と鑑別を要するものの第一は反応性濾胞過形成である。大部分の症例はHE像で鑑別できるが、それでも難しい症例もある。そのような場合はbcl-2蛋白検索が有用である。また、濾胞性リンパ腫のなかで時折みられる組織像の中でinverted typeといわれる濾胞をみることがある。

図4, 5はHE, 図6はbcl 2である)
これは中心部がむしろクロマチンに富んだ細胞が多く、その周囲により大型の細胞が帯状に増殖しているもので、通常の濾胞性リンパ腫とは逆の配列になっている。その型の症例は反応性と診断されることが多い。マントル細胞リンパ腫はCD5とcyclinD1がキーマーカーである。前者がパラフィンではかすかに陽性の症例があり、注意を要する。cyclin D1(図7)は大変重要であるが、固定条件や抗原賦活化の方法などに左右されることがあるようで、どの抗体がよいかは、各施設で検定する必要がある。
MALTリンパ腫は約60%が胃に発生する。鑑別は慢性胃炎との鑑別が常に問題になる。これにはWotherspoon's scoreがよく使用されるが、実際上の鑑別としても有用である
表4, Grade 1,2は図8,Grade 3は図9,Grade4は図10,Grade5は図11に示す)


3. B細胞性びまん性大細胞型リンパ腫(DLBCL)、バーキットリンパ腫に関わる鑑別とpitfall

DLBCLは非ホジキンリンパ腫の中で最も多いものである。 新WHO分類では細分類については積極的ではないが、表5のように形態学的、臨床病理学的特徴が明らかな症例は、別にあつかうべきである。 鑑別を要する疾患としていくつの重要な疾患があるが、よく問題になるのはバーキットリンパ腫である。 バーキットリンパ腫の診断の根拠となるのは中型でクロマチンに富んだ核を有しstarry-sky像を示すこと、染色体でのt(8;14)を中心とするcMYCの再構成およびoverexpressionが重要である。 このような典型的な症例は比較的容易にDLBCLと鑑別できるが、問題は両者の中間型ともいうべき症例があることと染色体検査で例えばt(8;14)があっても組織学的にはDLBCLとしか言えない症例がみられることである。 前者のものに対してREAL分類ではBurkitt-likeリンパ腫という分類項目もあるが、診断の一致率は低い。 新WHO分類ではt(8:14)がある症例のなかで、典型的な像を示さないものにatypical Burkitt、Burkitt-likeリンパ腫という名称を与えることになっているが、染色体検査などがなされない症例が少なくないのが問題である。 この鑑別診断に有効な手段としてKi-67抗原を検索することが勧められる。 ほとんどのリンパ腫細胞が陽性である症例をBurkittあるいはBurkitt-likeとして扱うことが実際的である。 図12はバーキットリンパ腫の組織像で図13はMIB-1である。t(8;14)がありながら大細胞型リンパ腫と診断した例は図14がHE, 図15にMIB-1を示す。 両者はかなり異なっている。 DLBCLと鑑別を要する疾患のなかで良悪性がからむものは伝染性単核球症がある (図16, 図17 HE, 図18EBER-1 in situ)。 幸い少数しか経験していないが、症例によってはDLBCLそのものの像をとるので、臨床検査データが是非必要である。 そのほかの要鑑別例では癌(図19)、悪性黒色腫(図20 HE, 図21 HMB45)などが重要である。 癌のうちundifferentiated carcinomaでは各種マーカーが陰性であることが少なくない。 リンパ腫の場合は何かの血球系マーカーが陽性になることがほとんどであり、鑑別が難しい場合は幅広く検索している。 そして、何も出なかったら癌である可能性が高い。 黒色腫のうちamelanotic typeが問題である。 あまりにもきれいなimmunoblastic typeをみたら一応疑ってみた方がよい。


4. 末梢性T/NK細胞性リンパ腫に関わるpitfall

T細胞性NK細胞性リンパ腫はわが国では相対的に頻度が高く、予後が一般に不良であるので、正確な診断が要求される。 その詳細は他項に譲る。鑑別の問題になるのは、濾胞間に異型な細胞が出現するリンパ節あるいは血管免疫芽球性リンパ腫に関わる疾患である。鑑別診断ではウイルス特にEBウイルスによるものと、薬剤によるリンパ節炎には注意を要する。

薬剤性の一例を図22にあげたが、その可能性を考えていないと容易にT細胞性リンパ腫に診断してしまうような組織像である。 自験例では抗痙攀薬、抗生物質、鎮痛解熱剤などによると考えられる症例があるが、中にはどう見てもリンパ腫にしか見えないものもある。 T細胞性とくに血管免疫芽球性リンパ腫の診断をつけるときはこれらの可能性がないかを臨床に確かめてから診断を下すべきである。


5. ホジキンリンパ腫(HL)に関わる鑑別診断

HDに関わる鑑別診断として良悪性が問題となるのはLP nodularとはprogressively transformed germinal centerが出現しているfollicular hyperplasiaがあるが、遭遇する機会は少ない。 肉芽腫性の変化のみみられるリンパ節があり、近接のより大きなリンパ節にはReed-Sternberg細胞が見出されるようなことも時折経験される。よく臨床所見を確かめる必要がある。 また、類上皮細胞肉芽腫が著しく、その中にReed-Sternberg細胞が埋没した様になってこれを同定しにくい症例は 比較的多く経験される最も鑑別上問題になるのは非ホジキンリンパ腫、とくにanaplastic large cell lymphoma (ALCL) である
(図23HE,図24EMA)。後述するようにALCL自体もALK陽性、陰性が存在することが判明しており、 HDと鑑別を要するのは主としてALK陰性例である。HLとALCLの鑑別にはCD15とEMAが有用であり、 HLではCD15(+)EMA(-)、後者はCD15(-), EMA(+)というパターンが多い。鑑別の一助になる所見である。


6. 皮膚のCD30陽性リンパ増殖性疾患に関わるpitfall

皮膚のCD30陽性リンパ増殖性疾患は非常に特異な病態であるlymphomatoid papulosis (LyP)、 ALCLを包含する疾患単位である。LyPは典型的には(多発性)小隆起性病変で、大型の異型なときにはReed-Sternberg細胞類似の細胞が好中球や好酸球浸潤を伴って増生している。

一見するとリンパ腫との鑑別を要する組織像である(図25:CD30陽性である)。 このような病変が消退と再発を繰り返していくのである。 典型的な症例では臨床経過をあわせるとLyPの診断はそう困難ではないが、図26のような症例はどうであろうか。大型のリンパ腫細胞そのものの充実性増殖であり、組織学的にはリンパ腫としか言いようがない。しかし、この症例もCD30陽性で無治療にもかかわらずほどなく消失した。 LyP関連疾患をよく研究しているWillemzeの総説の表を一部改変してみた(表6)。 この表は一見すると複雑であるが、要するに臨床経過が大事であり、臨床的にLyPであればLyPとされており、 経過上lymphomaであればlymphomaと診断されている。 従って、組織学的な所見も重要ではあるがその経過を推定することは大変難しいと言うことを物語っている。


参考文献

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