低悪性度B細胞性リンパ腫の組織学的特徴と鑑別診断
更新日:2003年10月17日    掲載日:2003年10月17日
国立がんセンター中央病院臨床検査部病理 二村 聡、松野 吉宏
A) 序説「低悪性度B細胞性リンパ腫」  B) 低悪性度B細胞性リンパ腫の病型分類  C) 低悪性度B細胞性リンパ腫の病理診断とそれらの鑑別の必要性  D) 病型各論: マントル細胞リンパ腫 Mantle cell lymphoma  E) 病型各論: 濾胞性リンパ腫 follicular lymphoma  F) 病型各論: 慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫  G) 病型各論: 濾胞辺縁帯リンパ腫 / MALTリンパ腫  H) おわりに  追加項目  参考文献

 
  小リンパ球との識別がしばしば困難な小型リンパ球を腫瘍細胞の主体とする幾つかの腫瘍性疾患単位は、低悪性度B細胞性リンパ腫(low-grade B-cell lymphoma)と総称される。
しばしば低悪性度B細胞性リンパ腫は小型B細胞性リンパ腫(small B-cell lymphoma)とも換言されるが、個々の症例により観察される構成腫瘍細胞サイズのバリエーションは当然存在し、小型細胞が主体をなすものから中型細胞が主体をなすものまで様々で、大型細胞が混在することを特徴とするものもある。
大型細胞が領域性をもって増殖する場合は(びまん性)大細胞型B細胞性リンパ腫への移行(large cell tranform)として広く理解されている。

 発症は大細胞型B細胞性リンパ腫に比べて、より高齢者に多い傾向がある。
低悪性度B細胞性リンパ腫を構成する疾患単位は「低悪性度」という形容詞からか「比較的予後良好」なリンパ腫と安易に認識(誤解)されやすい傾向がある。本来、低悪性度とは腫瘍学の領域では「生物学的悪性度が低い、つまり臨床経過が緩慢で、生命予後は良好」と理解される用語である。
しかし「低悪性度リンパ腫」は「年余にわたる緩慢(indolent / less aggressive)な臨床経過を示す小型(-中型)B細胞性リンパ腫で、濾胞辺縁帯リンパ腫、濾胞性リンパ腫、慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫などの疾患単位から成るが、マントル細胞リンパ腫のごとき予後の極めて不良なリンパ腫を含む」と理解した方が実際的である。マントル細胞リンパ腫はいまだ標準治療法が確立されておらず5年生存率30%未満の予後不良な治療抵抗性のリンパ腫である。マントル細胞リンパ腫はその生物学的悪性度の高さからも「真の低悪性度」とはおよそ言い難い。

一般に低悪性度B細胞性リンパ腫の治癒の可能性は増殖している細胞の割合が低い(low growth fraction)ことからも現行の治療(放射線療法や化学療法)で腫瘍細胞を根絶することは困難である。
その意味からも、近年キメラ型抗CD20抗体(rituximab: リツキサン)の併用による低悪性度B細胞性リンパ腫の治癒に高い期待が寄せられている。一方でMALTリンパ腫(MALT型の濾胞)のように臓器限局性が強く、局所治療や胃MALTリンパ腫のごとくH.pyloriの除菌療法で治癒する病型もある。
このように低悪性度B細胞性リンパ腫にはMCLに代表される予後不良の群から局所療法で治癒可能な群まで、臨床対応の異なる疾患単位が含まれていることを充分に認識する必要がある。
従って低悪性度B細胞性リンパ腫の的確な病型診断は

(1)適切な治療が遂行されること
(2)正確な予後予測がなされること

この二つの鍵を握っている。以上の観点からこのセッションでは新WHO分類に準拠して

(1)マントル細胞リンパ腫(以下MCLと略)
(2)濾胞性リンパ腫(以下FLと略)
(3)慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫(以下B-CLL / SLLと略)
(4)濾胞辺縁帯リンパ腫/MALTリンパ腫(以下MZL / MALTリンパ腫と略)

の四病型の病理診断について解説した。

 この手引き集は(リンパ節病変を専門としない)診断病理医を対象にして日常の診断業務に可能な限り活用できることを主眼において作成されたものである。
診断のピットフォールについては他のセッション(目次2. 悪性リンパ腫の鑑別診断: とくにpitfallについて)でも詳しく解説されているので最小限にとどめた。さらにこのセッションでは消化管悪性リンパ腫の生検病理診断の概要についても付記した。なお各病型の臨床病理学的知見についてすべてを網羅することは到底不可能であり、詳細は2001年に刊行されたWHOのblue bookをはじめとした多数の優れた成書を充分に参照して頂きたい。
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  表1に非ホジキンリンパ腫の各病型を臨床的類型化(clinical grouping)したものを示す。
低悪性度B細胞性リンパ腫として包括されるリンパ腫のうち、B-CLL/SLL、リンパ形質細胞性リンパ腫、脾MZL、有毛細胞性白血病はindolent, desseminatedとしてまとめられ、その多くは病期の進行した状態(臨床病期III/IV)で発見される。リンパ節浸潤の他、骨髄や末梢血浸潤、肝脾腫が高頻度に見られる。
腫瘍の増殖は緩徐で、無治療でも何年も生存する例がしばしば経験される。
Indolent, extranodalとしてまとめられるMALTリンパ腫は消化管とくに胃、結膜などの眼附属器、甲状腺、唾液腺、肺などの節外臓器に発生し、発生組織に限局する傾向が強いため、しばしば放射線照射や外科的切除など局所療法の対象となる。
Indolent, nodalとしてまとめられるMCL, FL, MZLは、もっぱら節性リンパ腫として発見されるものであるが、とくに前二者は肝脾腫、骨髄浸潤の他、消化管浸潤例もよく経験される。
これらの中でB-CLL/SLL, FL, MCLの三病型はいずれもMALTリンパ腫と比べて進行病期(stage III/IV)症例が多く、肝臓・脾臓や骨髄に浸潤して白血化していることも少なくない。
表2に各病型の拡がりを示しているが、MALTリンパ腫が他の三病型に比べて臓器限局性が強いことが容易に理解されよう。
ときに局所療法で治癒可能なMALTリンパ腫は治療選択の面からも他の病型(non-MALTリンパ腫)と確実に鑑別されるべきである。
一方、予後予測の面からは最も予後不良なMCLと他病型(非MCL群)を的確に鑑別する必要がある。
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  一般に、低悪性度B細胞性リンパ腫の病理診断は下記のような理由から他のリンパ腫の病型診断に比べて困難であると言える。すなわち

(1)腫瘍細胞は反応性に出現した小リンパ球や形質細胞との形態的類似性が高く、反応性病変との鑑別が容易でないことがある。
(2)B-CLL/SLLのような欧米に比べて本邦での発症頻度が低いために、診断経験の乏しい病型が含まれる。
(3)B-CLL/SLLや有毛細胞性白血病のように病理組織診断のみでは確定困難ないしは確定できない病型が含まれる。
(4)リンパ形質細胞性リンパ腫のように病型の定義自体が充分明確でないものが含まれる。

以上の問題点を克服して正しい病理診断に到達するためには末梢血の細胞所見を含めて臨床医から病態に関する情報(病変が節性か、節外性か、臨床症状、起始経過など)を漏れなく収集すること、各病型を鑑別するために鍵となる免疫学的表現型(immunophenotype)を検索すること、そして何よりも組織挫滅が少なくかつ病理検索に耐える質の高い検体が採取されていること、が不可欠である。
以前は凍結切片でのみ検出可能であった表面マーカーの多くは、現在ホルマリン固定パラフィン包埋切片を用いて充分検出可能になっている。
表3にはMCL, FL, B-CLL/SLLおよびMZL/MALTリンパ腫の鑑別診断に有用な抗体パネルを示す。
これらの病型を鑑別すること、とりわけMCLと他病型(非MCL群)を的確に鑑別診断することの重要性は予後予測や治療選択に大きく影響することからも強調され過ぎることはない。しかしながら、実際の日常診療の場では

(1)十分量の組織検体が採取されていない
(2)高度の組織挫滅が加わり細胞形態の評価が困難
(3)常備している抗体の種類が少なく充分な免疫組織学的検索が遂行できない

など種々の制約を受けることが少なくない。そのため明確な病型診断に到達できないことがある。
そのような場合はやむを得ず、主診断名を「低悪性度B細胞性リンパ腫」とのみ記載して臨床側に報告することが適当と思われる。病型を確定するための充分な根拠が揃わない場合は無理な(ときに無謀な)診断は避けるべきである。かえって臨床医を混乱させ、何よりも患者さんにとってのメリットはゼロである。低悪性度B細胞性リンパ腫の多くは総じて臨床経過が緩慢であり、急性白血病のような早急な治療開始が要求されることはむしろ少ないので、組織学的検索のみでは解決できない場合は分子生物学的手法を用いたクロナリティーの有無や染色体転座の解析を行なうことも必要である。
また日本病理学会を通じて悪性リンパ腫の専門病理医にコンサルトすることも一策であろう。
胃MALTリンパ腫のようにH.pylori除菌療法が適用されるものから、MCL, FLなど化学療法が導入されるものまで様々な病型を含む低悪性度B細胞性リンパ腫の病理診断には常に 慎重でありたい。
表4にはこのセッションで概説する各病型の鑑別点をまとめた。
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  本邦ではリンパ腫全体の約2.8%を占め(文献10)、男女比は2対1で男性優位に発症する。
小型主体の腫瘍細胞から構成されるB細胞性リンパ腫の中では最も予後不良の病型で、5年生存率は27%に過ぎない。
初発時には既に病期は進行しており症例の約6割に骨髄浸潤を認める。本病型は基本的にリンパ節原発(節性)で、一部の例外を除き節外病変の殆どは二次的浸潤(secondary involvement)によるものとして差し支えない。
節外浸潤では消化管浸潤例がいわゆるmultiple lymphomatous polyposis(MLP)の肉眼形態を示すことで広く知られているが、部位によりその形態は異なる。
図1にマントル細胞リンパ腫の胃(写真3)、十二指腸(写真4)および結腸(写真5)への浸潤病変の内視鏡写真を示す。胃ではポリープ病変よりも粘膜ヒダの不規則な腫大が目立つこともある。なおMLPは悪性リンパ腫の消化管浸潤増殖部における肉眼形態表現であり、MCLに限らずFLやMALTリンパ腫、T細胞性リンパ腫などの他病型もMLPの形態を呈し得ることを知っておく必要がある。病理組織学的には「腫瘍細胞がびまん性に浸潤増殖あるいは不明瞭な結節性増殖(vague nodular)パターンを示すB細胞性リンパ腫」である。
ときに既存のリンパ濾胞胚中心を取り囲むマントルゾーンの著明な肥厚として認知される増殖様式を呈することがあり「マントルゾーンパターン」と表現される(図2)。
しかし実際の病理診断場面では「結節性増殖パターン」(図3)以外に「びまん性増殖パターン」(図4)を示すものも多数経験される。Yatabeらによる168例のcyclin D1陽性マントル細胞リンパ腫の形態解析でも結節性増殖パターンとびまん性増殖パターンの割合は各々50%であることが示されている。
そしてMCLの組織診断においては何よりも他の低悪性度B細胞性リンパ腫に比べて腫瘍細胞構成が単調であること(monomorphic feature)、均質であることが診断的価値の高い所見である(図5)。 すなわちFLに見られる胚中心芽細胞(centroblast / large non-cleaved cell)の混在は認められず、B-CLL/SLLに見られるparaimmunoblastから成るproliferation centerを欠く。
本病型は後述するB-CLL/SLL, FL, MALTリンパ腫のようなlarge cell transformは見られない。強拡大視野では腫瘍細胞は小型-中型で、細胞質に乏しく、多少なりとも変形した核を有し、ときに胚中心細胞(centrocyte / small cleaved cell)に類似する(図6)。
以前、centrocytic lymphoma(Kiel分類)、malignant lymphoma, diffuse, small cleaved cell type(WF)などと呼称されていた所以である。免疫学的表現型としてはCD5+ CD10- CD23- CD+/- cyclin D1+の所見が本病型と診断するためには重要である。とくにcyclinD1陽性所見の重要性は強調され過ぎることはない。遺伝子型は殆どの症例で染色体転座t(11;14)(q13;q32)が確認される。
亜型としてはblastoid variantsがあり、新WHO分類ではclassicとpleomorphicの二種類が明記されている。Classicでは腫瘍細胞がリンパ芽球を想起させるような繊細に分布する核クロマチンを有し、核分裂像も強拡大10視野で10個以上と目立つ。MCLの中でも、よりaggressiveな臨床経過を辿るようである。Pleomorphicではheterogenousな細胞から構成され、くびれた核や卵円形核と淡明な細胞質を有する腫瘍細胞が認められる。
本病型は予後不良なリンパ腫であり、治療選択の面からもびまん性増殖パターンあるいはvague nodular patternをとる他病型のリンパ腫との鑑別は確実になされるべきである。 HE標本上は先ず均質な細胞構成、単調な細胞増殖、核の変形などに注目する。B-CLL / SLLとの鑑別は腫瘍細胞の核所見の他、proliferation centerの存在の有無、FLとはcentroblast / large non-cleaved cellの有無がポイントとなる。MZL / MALTリンパ腫との鑑別ではMCLでは形質細胞分化所見はまず見られず、また経験的にlymphoepithelial lesion(LEL)の形成は概して目立たないことが参考となる。いずれの鑑別診断においても免疫染色でCD5+ CD10- CD23- CD43+/- cyclin D1+の免疫学的表現型を確認することでMCLの確定診断に至る。

★ cyclin D1の免疫組織化学の評価: 抗cyclin-D1抗体はホルマリン固定パラフィン包埋切片で使用可能な複数のモノクローナルおよびポリクローナル抗体が市販されており、各施設で最も安定した染色性を得るまで十分検討する必要がある。図7に示すようにMCLのcyclin D1陽性シグナルは核に局在する。リンパ節生検材料では血管内皮細胞や組織球が、扁桃では上皮の傍基底細胞の核陽性像が、消化管生検材料では腺上皮の核陽性像がbuilt-in controlとなる。
逆にcyclin D1抗体の免疫染色標本でbiult-in controlの陽性所見もまったく観察されない場合は、再検討すべきである。なお形質細胞腫/骨髄腫の一部でcyclin D1が陽性となることが知られているが、MCLとは形態的に鑑別可能であるのであまり問題にはならない。
図1 図2 図3 図4 図5 図6 図7
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  本邦での発生頻度はリンパ腫全体の約6.7%程度である(文献10)。
これは米国における35%の発生頻度に比べて低い。
しかし、実際はその緩慢で長い臨床経過を反映してがん診療施設を受診する患者数は増加しているようである。実際に2001年(1月から12月末までの1年間)に国立がんセンター中央病院臨床検査部病理で診断された全悪性リンパ腫256例のうちFLは47例でその割合(約18%)は最多のびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(34%) に次いで高い。発症年齢のピークは50歳台にあり、他の病型と同様に高齢発症の傾向を示す。
また診断時には臨床病期の進行したものが多い。
長期的な予後は寛解と再発を繰り返す特徴からも不良と言える。予後関連因子としては後述するhistological gradeがある。
本邦の集計で節性FLと節外性FLの比は約6対1と報告されているように、本病型は原則的にリンパ節原発(節性)であり、節外発症は稀である。節外臓器におけるFLの診断には慎重でありたい。
ただし、Yoshinoら(文献17)、中村ら(文献36)が報告しているように節外臓器では消化管とくに十二指腸病変はしばしば経験されるので、十二指腸下行脚以遠に多発する小型ドーム状白色隆起病変(図1: 写真@A)の生検診断においてはFLの可能性も考慮する必要がある。この場合は内視鏡検査所見も参考にするとよい。
またMCLと同様に消化管にはMLPを形成することもある(図8)。リンパ節病変は拇指頭大に腫大するものから、癒合して直径10cmを超える腫瘤(bulky mass)を形成するものまで様々である。
典型的な症例では1-2mm径の小結節が多数増生する独特な割面を示す(図9)。
病理組織学的には「少なくとも一部で独立した濾胞様結節を形成する胚中心構成B細胞由来のリンパ腫」である。 通常、幅の狭い暗調なマントル層により縁取られた(これをlymphoid cuffingという)明調な濾胞様結節つまり腫瘍性濾胞(neoplastic follicle)がリンパ節全体にわたり増生する(図10)。しばしばリンパ節被膜周囲の脂肪組織内にも腫瘍性濾胞を形成しながら浸潤する(図11)。この脂肪組織内における腫瘍性濾胞形成所見は重要な所見であることからも、筆者らは周囲脂肪組織も含めたリンパ節生検を臨床医に推奨している。実際の診断場面では前述した定型的な組織所見以外に

(1)マントル層の縁取りが不明瞭な腫瘍性濾胞が隣接して密に増生するもの(図12)
(2)小型の腫瘍性濾胞が目立ち同濾胞間領域が拡大しているもの(図13)
(3)中心部が暗調でその周囲が明調な腫瘍性濾胞(inverse / reverse variant)が増生するもの(図14)

など多様な所見に遭遇する。その他の亜型は成書に譲るが、いずれの腫瘍性濾胞においても正常濾胞胚中心に観察される暗調帯、明調帯といった細胞分布極性は消失し、核片貪食細胞(tingible body macrophage)も殆ど介在していないことがHE標本上重要な所見である。そしてこの所見は頻度の差はあれどのhistological gradeで あっても共通して見られる。既存の濾胞胚中心との細胞構成の相違を十分に理解することが、後述する非腫瘍性の反応性濾胞過形成との鑑別診断の第一歩である。
腫瘍性濾胞は胚中心細胞(centrocyte)に類似した小型-中型の異型細胞(small cleaved cell)と胚中心芽細胞(centroblast)に類似した大型の異型細胞(large non-cleaved cell)が種々の割合で混在し、増殖することで形成される。小型-中型の異型細胞は図15に示すごとくヘチマ状、キュウリ状または絞った雑巾のようなやくびれや切れ込みを有する特徴のある核形態を示す。
一方、大型の異型細胞は水泡状の卵円形核と核縁に偏在する1-3個の核小体を有する。この大型細胞の多寡は生命予後と密接に関連することから新WHO分類ではGrade 1, 2, 3の三群に分類(grading)している。すなわち対物レンズ40倍の強拡大視野で10個の腫瘍性濾胞におけるcentroblastに類似した大型異型細胞の数を各々算出し、その最大値が5個以下はGrade 1(図16)、6-15個はGrade 2(図17)、16個以上はgrade 3としている。Grade 3には3a(図18)と3b(図19)があり、grade 3bはシート状に大型細胞が増生するもの、Grade 3aは多少なりとも小-中型異型細胞が混在するものとしている。
Grade 3のFLにおける腫瘍性濾胞は融合拡大する傾向が強く、びまん化領域(diffuse area)を伴いやすい(図20)。 とくにGrade 3bのびまん化領域の組織像はびまん性大細胞型リンパ腫とほぼ同じであり、FLのlarge cell transformationとして理解される病変である。このような場合は、blue bookに呈示された記載要領に準じて、例えばDiffuse large B-cell lymphoma(30%) and follicular lymphoma, Grade 3(70%) のようにびまん化領域が存在する旨を報告書に記載すべきである。この「びまん化領域を伴うFL」においてはびまん性大細胞型リンパ腫の形態をとることが最も多いが、びまん化領域は必ずしも大型細胞から構成されるとは限らず小-中型細胞から構成されることもしばしば経験される。
従って、びまん化領域を即びまん性大細胞型リンパ腫と判断するのは危険である。
さらに日常の診断場面では不完全に融合拡大する腫瘍性濾胞についての解釈つまり「びまん化」とするか否か、「びまん化領域」の割合の算定の基準は病理医間で異なることが当然予測されるが、要は(経過のある症例では既往の生検組織と必ず比較して)びまん化領域が目立つこと、histological gradeが高くなっていること、びまん性大細胞型リンパ腫の領域が見られこと、などを漏らさず臨床側に報告することが重要であり、最優先されるべきである。
免疫学的表現型としてはCD5- CD10+ CD20+ CD23- bcl-2+がFLと診断するために重要である。殆どの症例で染色体転座t(14;18)(q32;q21)を認める。
鑑別対象としては第一に反応性病変とくに濾胞過形成である。
反応性の過形成濾胞の多くは明瞭なマントル層を有し、濾胞内の細胞分布極性も比較的保たれている。
また濾胞の大きなものほど(大きくなるにつれて)核分裂像やtingible body macrophageが目立ち、程度の差はあるが濾胞間領域の拡大も随伴する(図21)。免疫染色ではbcl-2陽性細胞分布が特徴的で、反応性過形成濾胞では「胚中心陰性、マントル層陽性」となるが(図22)、腫瘍性濾胞は通常bcl-2陽性となる(図23)。FLではそのgradeが高くなるにつれてbcl-2を過剰発現する症例が少なくなる傾向があるが、腫瘍性濾胞と反応性過形成濾胞との鑑別に限ってはbcl-2を用いた免疫染色はきわめて有用である。
ただし表3に示しているように他の小型B細胞性リンパ腫も高頻度にbcl-2陽性となることから、FLとMCL, B-CLL / SLL, MALTリンパ腫との鑑別にはbcl-2を用いた免疫染色はまったく役に立たない。 この点はよく誤解されているようである。
次に濾胞様結節構造が不明瞭なFLはvague nodular patternを呈するMCLとの鑑別が問題となるが、小型-中型-大型細胞が多少なりとも混在し多彩な細胞構成を示すFLと、単調な細胞構成(monomorphic feature)をその最大の特徴とするMCLとは鑑別し得る。
またB-CLL / SLLとはparaimmunoblastの集簇巣であるproliferation centerの有無ならびに濾胞様結節に一致したCD10陽性所見やCD21陽性のfollicular dendritic cell(FDC)のメッシュワーク構造の有無を検討することも鑑別の一助となる。このCD10陽性所見はMALTリンパ腫とくに「腫瘍細胞が濾胞胚中心内に浸潤し増殖する現象つまりfollicular colonizationの顕著な症例」との鑑別の際に有用であることが多い。
さらに不明瞭な結節様構造を呈するFLではCD3陽性のT細胞の分布を知ることによって結節形成をより明確に認識可能なことが多く(図24)、これに加えて多彩な細胞構成と当該異型細胞の膜に一致したCD10陽性像(図25)が得られればFLの診断は確実となる。
そしてFLは原則として節性優位であるので、MALTリンパ腫などの節外優位の他病型との鑑別に難渋した場合は発生部位を考慮することも病理診断の助けとなる。
図8 図9 図10 図11 図12 図13 図14 図15
図16 図17 図18 図19 図20 図21 図22 図23
図24 図25
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  Chronic lymphocytic leukemia / Small lymphocytic lymphoma (B-CLL/SLL)
本病型の発生頻度は本邦の調査結果では1.3%で(文献10 )、MCL、FL、MALTリンパ腫の頻度に比べて最も低い。
実際の診療場面においても遭遇する機会に乏しい病型であろう。
大部分の症例は診断時には既に白血化している。発症年齢は65歳前後で、殆どが高齢者である。
「肝脾腫と高度の白血球増多を伴う60-70歳代の高齢者のリンパ節生検材料」が提出された場合は、本病型も鑑別対象に入れるべきである。5年生存率は50%で、確立された標準的治療法もなく長期的には治癒の望めない病型である。また一部の病型はその長い経過中に「びまん性大細胞型リンパ腫」に移行することがあり、Richter(リヒター)症候群として広く知られている(図26)。
本病型の病理学的定義は「末梢血、骨髄もしくはリンパ節における小型Bリンパ球の単調なびまん性増殖から成る腫瘍で、リンパ節ではしばしばprolymphocyteないしはparaimmunoblastの結節性集簇巣を混在する。
腫瘍細胞は通常CD5, CD23を発現する。B-CLLと同様の組織所見および免疫学的表現型を示しながら白血化をみない群をSLLとする」と簡約される。SLLの組織学的所見は小型円形リンパ球の単調かつ緻密なびまん性増殖によりリンパ節の既存の構築は消失している(図27)。
大部分の症例で均一で暗調な背景の中に、境界不明瞭ないしは融合するするやや明調の結節状領域(proliferation center, pseudofollicle,またはgrowth centerと呼ばれている)がおぼろげに視認できる。これは青い空(暗調な背景)に浮かぶ白い雲(明調な領域)と形容することができる(図28)。暗調な領域の構成細胞は小型であるが、非腫瘍性小リンパ球に比べてしばしば一回り大きい(図29)。ときに形質細胞様形態を呈することもあり、以前Updated Kiel分類でlymphoplasmacytic/-cytoid lymphomaと命名されていた所以である。
一方、明調な結節状領域は本病型の組織学的hallmarkでもあり、診断的価値が高い。この領域は、やや広めの細胞質と明瞭な中心性核小体を有するparaimmunoblast と呼ばれる大型細胞 (図30)、 これと同様の形態を示しつつ一回り小型のprolymphocyteが集簇する場と理解されている。
免疫学的表現型としてはCD5+ CD20+ CD23+ CD43+ CD10- cyclin D1-がSLLと診断するためには特に重要である。遺伝子型はtrisomy 12や13q14を含む染色体異常が知られる。
鑑別対象としては節性病変で結節性増殖パターンを呈する病型つまりFLやMCLが挙げられる。FLのうちGrade 2ないしは3の大型細胞を混在する腫瘍性濾胞との鑑別点は腫瘍性濾胞には

(1)必ず核のくびれた小型細胞(small cleaved cell)が混在していること
(2)CD10陽性細胞から構成されること
(3)同部にはCD21陽性の濾胞樹状細胞(FDC)のメッシュワーク構造が見い出されること

である。Proliferation centerには(1)(2)(3)の所見は見い出されず、CD5+ CD23+ CD43+の腫瘍細胞から構成される。MCLとの鑑別はSLLの構成細胞はCD23陽性、cyclin D1陰性となることが重要である。
SLLの病理診断においてはproliferation centerを同定することが最優先されるべきで、逆に複数個の切片を作製してもproliferation centerが見出せない場合はSLLと診断することに慎重でありたい。
図26 図27 図28 図29 図30
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  Marginal zone B-cell lymphoma / MALT lymphoma
計3194例を対象に行なった多施設共同の検討では本病型の発生頻度は節外性濾胞辺縁帯リンパ腫(MALTリンパ腫)は270例(8.45%)で、節性濾胞辺縁帯リンパ腫は32例(1.0%)である(文献10)。MALTリンパ腫は全体の33.3%(1065例)を占めるびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫に次いで高い発生頻度を示す病型である。実際の診断場面においても経験する機会が多い病型であり、本稿ではMALTリンパ腫に的を絞って概説する。周知のごとくIsaacson P, Wright DHが「リンパ節外臓器の粘膜関連リンパ装置(mucosa-associated lymphoid tissue: MALT)を母地として発生する低悪性度のB細胞性リンパ腫」と1983年にCancerに報告して以来、これまで反応性リンパ組織過形成(reactive lymphoid hyperplasia:RLH)や偽リンパ腫(pseudolymphoma)など良性反応性疾患単位に入れられてきた病変の少なくとも一部(おそらく大部分)は、このMALTリンパ腫に属する腫瘍性病変であろうと考えられるようになった。そして彼らの判断基準に基づく形態的特徴を示す病変は、今日汎用されている免疫遺伝学的手法をもってB細胞の単クローン性増殖から成ることが証明されている。その結果、MALTリンパ腫はREAL分類、新WHO分類では独立した疾患単位として組み込まれ、その市民権を得るに至っている。彼らの主張が世界的に浸透した現在、形態学的診断を支える方法論の発達と普及により、従来RLHと呼ばれてきた疾患概念はそれが反応性であり、過形成であるという立脚点を失いつつある。 MALTリンパ腫は胃をはじめとする消化管、甲状腺、唾液腺、眼附属器などに好発するが、全身の節外臓器に発生しうる。 この中には解剖学的には本来リンパ組織が備わっていない臓器も含まれているが、「MALTリンパ腫はMALTを母地として発生する」というIsaacsonらの提唱するコンセプトに基づけば、後天的に(二次的に)形成されたMALTがその発生母地となることが理解できる。 甲状腺や唾液腺などには自己免疫性慢性炎症(前者では橋本病、後者ではシェーグレン症候群)を背景にした二次的なMALTが形成され、これらがリンパ腫の発生母地となると考えられる。こうして1991年にWotherspoonらは胃MALTリンパ腫の症例の多くにH. pylori感染を伴っていることを示し、背景としてのH. pylori感染による慢性胃炎の重要性を指摘するに至った。従って、外因に相当するH. pyloriを除く(つまり除菌する)ことによって、胃MALTリンパ腫の発生や進展をコントロールできるのではないか、と発想されることは当然の帰結である。実際の診療場面でもH. pyloriの除菌により病変が改善ないしは消退する胃MALTリンパ腫症例がしばしば経験される。 MALTリンパ腫は発生臓器に限局する傾向が強く局所療法の対象となることから常に病理診断の重要性が強調されるが、一方では今回のセッションで扱う病型の中では最も多様な組織形態を呈することも事実であり、病理診断の困難性も強調されるべきである。
本病型の組織学的定義は「形態的に多彩な細胞構成を示す節外性B細胞性リンパ腫である。すなわち胚中心細胞類似細胞(centrocyte-like cell: CCL cell)、単球様B細胞(monocytoid B-cell)、小型リンパ球、および少数の大型芽球様細胞が混在して主に濾胞辺縁帯(マージナルゾーン)から濾胞間領域にかけて浸潤増殖するリンパ腫で、しばしば腫瘍細胞は上皮内に浸潤し、lymphoepithelial lesion (LEL)を形成する」と簡約される。発生臓器によりその組織学的特徴は微妙に異なるが、基本的には下記の所見(1-5)に要約できる。

(1)構成する腫瘍細胞は小型-中型(概して血管内皮細胞の核よりも小さい)異型リンパ球から成り、軽微にくびれた変形核と中等量の細胞質(ときに明調)を有する。 これらの異型細胞はcentrocyte-like (CCL) cellと呼称され、胚中心細胞(centrocyte)に類似した細胞形態を示す(図31)。
(2)CCL細胞の他、しばしば淡明な広い細胞質を有する単球様細胞(monocytoid B-cell)が領域性をもって出現する(図32)。
(3)ときに形質細胞様分化所見(plasmacytoid differentiation)すなわちクロマチンが凝集し偏在傾向を示す核と両染性細胞質を有する異型細胞が混在し、核内封入体様のDutcher小体(図33)や細胞質内に好酸性球状物(Russell小体)を見ることもある。
(4)腫瘍細胞が発生組織の上皮内に浸潤し、いわゆるlymphoepithelial lesion (LEL)を形成する(図34図35)
(5)腫瘍細胞は胚中心を残してその暗殻(マントルゾーン)のさらに外側の辺縁帯(マージナルゾーン)を主座としてびまん性に増殖する(図36)

腫瘍細胞が胚中心内に浸潤増殖(follicular colonization)することもある(図37)。 以上の特徴的な所見が揃って観察されることが理想的であるが、実際の病理診断の現場では検体量により一部の所見しか観察されないこと(見い出されないこと)がある。
つまり外科切除やexcisional biopsyにより得られた検体では挫滅も最小限でかつ多くの所見が観察できるが、消化管生検やincisional biopsyにより得られた検体は小さく挫滅が加わっていることが多い。
リンパ増殖性病変はそれ自体が挫滅しやすいので採取検体を最初に取扱う臨床医、看護師にも注意を喚起する必要があろう。また本病型は前述したごとく典型的なCCL細胞や単球様B細胞が主たる構成細胞のこともあれば、小型成熟リンパ球と見分けることが困難な、小さくて異型性を指摘しにくい細胞から構成される場合もあり、症例間でかなりのバリエーションが存在することを知っておく必要がある。なお先に述べたLEL形成所見はMALTリンパ腫の組織学的特徴ではあるが、重要な点は「上皮内に浸潤する細胞が当該腫瘍細胞であること」である(図38)。より明確にLELを認識するためにはKeratin AE1/3、CAM5.2などのサイトケラチンの免疫染色を行なうとよい(図39)。真のLELとLEL様所見(偽LEL所見)とは明確に区別する必要があり、混同してはならない。扁桃組織では(恒常的と言っても差し支えないほど)上皮内に非腫瘍性リンパ球の浸潤が観察されるし、唾液腺の非腫瘍性の慢性炎症でも導管上皮内へのリンパ球浸潤が観察される。 慢性活動性胃炎(chronic gastritis, active inflammation)においては腺上皮内への好中球を含む小リンパ球浸潤が少なからず観察される。これらは(真の)LELとしてはいけない所見であり、MALTリンパ腫の診断根拠とはならない所見でもある。
また本病型は病変内にlarge cell transformantと言うべき大型異型リンパ球の領域性増殖を示すことがある。
これは以前「high-grade MALTリンパ腫」と呼称されていたが、MALTリンパ腫は元来、小型ないしは中型の異型細胞からなるリンパ腫であり、大型細胞から構成される場合は「びまん性大細胞型リンパ腫」という診断名を使用すべきである。新WHO分類のblue bookにも「high-grade MALTリンパ腫」なる用語は使用しない旨が明記されている。
MALTリンパ腫自体が少数散在性に大型芽球様細胞を混在(内在)することは通常よく観察されるので、とくに消化管生検におけるlarge cell transformationの判定は慎重でありたい。
大型細胞が領域性をもって多数集簇したり(図40)、シート状に増殖巣を形成した場合に限って「MALTリンパ腫を背景に有するびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫」と診断可能である。前述したが、同一症例でも部位により大型細胞の分布や多寡に違いがあり、とくに消化管生検診断においてはその判断に難渋することがある。さらに生検組織片では粘膜固有層の二次リンパ濾胞の胚中心の一部が大型異型細胞と誤認されることがしばしばあるので注意を要する。
これは消化管リンパ腫の生検診断のいわばピットフォールでもある。胃MALTリンパ腫とびまん性大細胞性リンパ腫では治療方針が異なるので、診断病理医は正確な情報を臨床サイドに伝える義務があるが、(挫滅の加わった)小さな検体での組織診断には限界があるのも事実である。この場合は臨床サイドに 「当該病変の中心および辺縁から複数個の組織片を再生検すること」を依頼することも重要である。
内視鏡的に隆起型、潰瘍形成型を呈する群は除菌療法が奏功しにくく、組織学的にもびまん性大細胞性リンパ腫であることが多く経験されており、内視鏡診断医との情報交換には労を惜しんではいけない。
鑑別診断においては先ず第一に背景の慢性胃炎との鑑別が問題となる。
とくに(治療前の)生検診断では他病型との鑑別診断と同時に「腫瘍性病変か、非腫瘍性の反応性病変か」の判断を迫られる。胃生検では@粘膜固有層に巣状に小型リンパ球が集簇し、しばしば不完全なLELを形成する症例、A粘膜固有層よりもむしろ筋板内に小リンパ球の集簇が目立つ症例やB胚中心拡大を伴う二次リンパ濾胞を形成する症例(図41)、などよく経験される。
このような症例の胃内視鏡所見は軽微な粘膜の発赤やびらんとして認識されていることが多い。組織学的に腫瘍性か、非腫瘍性かの判断が困難な境界病変とも言うべき「gray zone」の病変に対しては「Chronic gastritis with lymphoid aggregate, see comment」などの病理回答のもと、H.pylori陽性であれば「除菌療法にて経過観察し、3-6ヵ月後に再生検」という対応は適切であると考える。Wootherspoonらの診断基準のGrade 3に相当する胃病変の取扱いについては慎重でありたい。
Grade 3相当の胃病変の多くはH.pylori除菌療法で消退することが多いようである。逆に「経過観察中」のMALTリンパ腫症例の胃生検材料では「除菌療法施行の有無」を必ず確認することも重要である。さらに消化性潰瘍瘢痕部やその周囲粘膜においては高度のリンパ濾胞形成性の胃炎の像を呈することがあり、内視鏡的にも粘膜の小顆粒状変化として捉えられる。同部からの生検組織は一見MALTリンパ腫と紛らわしく、数回の生検にて鑑別可能な場合もある。
いずれの場面でも主治医や内視鏡診断医との情報交換が重要である。
第二の鑑別対象は濾胞性リンパ腫である。とくにfollicular colonizationが顕著なMALTリンパ腫がその弱拡大視野の類似性から鑑別の対象となる。
この場合は構成細胞の形態観察に加えて、免疫学的表現型検索つまりFLの腫瘍性濾胞はCD10陽性細胞から構成されることからMALTリンパ腫との鑑別は可能である。第三の鑑別対象としてはマントル細胞リンパ腫である。消化管浸潤病変を形成しやすく、かつ構成細胞の大きさが同等のMCLは生命予後が不良である点、治療方針も異なる点からも生検による的確な病型診断の重要性が強調され過ぎることはない。この場合、MCLでは

(1)腫瘍細胞に形質細胞様分化所見は見られない
(2)腫瘍細胞がCD5陽性、cyclin D1陽性(図42)となる
ことからMALTリンパ腫との鑑別は可能である。とくに消化管病変の診断場面においては、

(1)病変分布状況つまり上部-下部消化管の多発病変形成の有無
(2)肉眼形態つまりポリープ様隆起病変なのか単に発赤として認識される病変なのか
(3)節性病変の有無つまり表在-深在リンパ節腫大の有無についての情報

を把握しておくことは必須である。これらの情報を無視したリンパ腫の病理診断はあり得ない。
図31 図32 図33 図34 図35 図36 図37 図38
図39 図40 図41 図42
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  小型B細胞性リンパ腫のうちMCL、FL、B-CLL/SLLおよびMALTリンパ腫の四病型について概説した。
このうちMCLはREAL分類に加えられて以来、現在リンパ腫のなかで免疫形質的にも遺伝子学的にも最も純粋な独立疾患単位となっているといっても過言ではない。MCLは現行の治療法では他病型に比べて明らかに治療抵抗性でその生命予後は不良である。他病型(つまり非MCL群: FL, B-CLL/SLL, MALTリンパ腫)とは確実に鑑別する必要があることをあらためて強調したい。現在、新WHO分類により輪郭が明瞭となった個々の病型に対して最適な治療手段が標準的治療法として確立されつつある。
従って、「適切な治療」を遂行するためには、「正しい病理診断」が不可欠である。この決して簡単ではないリンパ腫の診断を行なうに際して最も大切なことは、主治医や内視鏡、画像診断医と病理医の相互理解であろう。悪性リンパ腫がありとあらゆる臓器に発生することを考えれば、患者さんは内科のみならず、一般外科や耳鼻咽喉科、眼科にも受診する。それぞれの立場からの情報交換はもとより、お互いの利点や限界を充分に理解しつつ、前向きで真摯な態度で問題とする病変の診断にあたるべきである。
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 消化管悪性リンパ腫の病理診断の概要
  本邦の悪性リンパ腫のうち、原発部位が節外臓器と考えられる症例(節外性リンパ腫)は約50%を占める。 節外性リンパ腫に占める消化管リンパ腫の比率は約30%でそのうち胃が最多である。 表5には消化管にみられる悪性リンパ腫の主な疾患単位リストを示す。 日常遭遇することの多い病型はMALTリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫であり、ときにMCLやFLも経験する。MCLやFLは原則的に節性のリンパ腫であるが、しばしば消化管にも浸潤する。

表6に比較的よく経験される疾患単位を部位別に示す。 FLでは検診で偶然に十二指腸病変が発見され、リンパ節病変に先行して病型が確定することもある。 Burkittリンパ腫は小児-若年者の下腹部腫瘤で発症することが多い。 本邦での消化管T細胞性リンパ腫は大部分が末梢T細胞リンパ腫である。 本邦ではEnteropathy型のものはごく稀である。成人T細胞白血病/リンパ腫は消化管各部位に浸潤する。
 【生検診断の問題点】
  一般に、消化管生検標本でリンパ増殖性疾患を疑った場合には、まずHE標本上で下記のような点に注目したアプローチが必要である
 [1] 小型、中型細胞から成るリンパ腫をめぐる鑑別診断
  小型、中型の異型リンパ球を主体とするリンパ腫にはB-CLL/SLL, MCL, FLおよびMALTリンパ腫のようなB細胞性リンパ腫が多く含まれる。消化管をはじめとする節外臓器においては、その代表的な病型はMALTリンパ腫である。
 ■炎症性か、MALTリンパ腫か
  未治療の消化管生検組織に認められる小型-中型リンパ球集簇巣が、細胞密度が高く、領域性を示す場合は悪性リンパ腫と診断可能もしくは強く疑われる。H. pylori感染に伴う慢性活動性胃炎ではしばしば粘膜固有層内に複数の二次リンパ濾胞を形成するので、結節性増殖パターンを示すリンパ腫と鑑別を要する。
 ■MALTリンパ腫か、びまん性大細胞型リンパ腫か
  MALTリンパ腫に内在する大型異型リンパ球が目立つ症例や、大型異型リンパ球が領域性増殖を示す症例については、従来「高悪性度成分を有するMALTリンパ腫」と診断されてきた。 MALTリンパ腫は本来低悪性度リンパ腫に用いられる用語であるので、びまん性大細胞型リンパ腫と表記することが推奨される。ただし、びまん性大細胞型リンパ腫と見なすための定量的な診断基準、つまり大型異型リンパ球の比率や領域性の程度については明確にはされていない。 従って診断する病理医間で認識のズレが生じることが多々あり、このことが大型異型リンパ球を内在するMALTリンパ腫に対する治療の標準化を困難なものとしている。 さらに生検組織片では粘膜固有層内の二次リンパ濾胞の胚中心の一部が「大型異型リンパ球の集簇巣」と誤認されることがあるので十分な注意が必要である。
 ■MALTリンパ腫か、他の病型か
  小型B細胞性リンパ腫の予後を予測し、適切な治療選択を行うためにはその亜型を鑑別する必要がある。 消化管生検診断において最も問題と成るのはMALTリンパ腫, MCLおよびFLの三者の鑑別である。 MCLはmultiple lymphomatous polyposis(MLP)の肉眼所見を呈する病型として知られているが、FLでも同様の肉眼所見を呈しうる。さらにFLは十二指腸にしばしば見い出される。 何れの診断場面に際しても、生検組織像による鑑別診断の補助として、免疫組織化学染色による形質解析が重要かつ有効な手段となる。同時に内視鏡所見やリンパ節腫脹の有無などの身体所見も診断に有用な情報である。
 ■H. pylori除菌療法後のリンパ腫残存の評価
  表層型進展を示す胃MALTリンパ腫で、とくにH. pylori感染の証明された症例は除菌療法によって組織学的に大きな修飾を受ける場合が多い。リンパ腫細胞自体も脱落し、著しい細胞密度の低下や浸潤範囲の限局化などの変化がみられるようになる一方で、殆ど変化しない症例(除菌療法非奏功群)も存在する。除菌療法施行後の腫瘍残存病変の有無に関する組織学的判定は、Wotherspoonらの基準を用いてスコア化されることが多い。
 [2] 大細胞型リンパ腫をめぐって
  大細胞型リンパ腫が決して単一の生物学的背景をもつものではないことはよく知られている。 消化管では(a) MALTリンパ腫からのlarge cell trasformation, (b) de novoに発生したびまん性大細胞型リンパ腫などが、この診断名のもとに混在しているものと思われる。
 [3] 消化管悪性リンパ腫の肉眼型、とくに胃悪性リンパ腫について
  胃腸管悪性リンパ腫の肉眼型は多彩であるが、基本的には佐野による胃悪性リンパ腫の肉眼型分類に当てはめることが可能である。佐野分類は「潰瘍型」、「隆起型」、「決潰型」の基本型に加えて、0IIc型早期胃癌に類似する「表層型」などを含む。胃MALT型リンパ腫の大部分は「表層型」で、その肉眼所見は多発性潰瘍瘢痕を伴い不規則な粘膜褪色を示す境界不明瞭な浅い陥凹性病変、不規則な溝状びらんを伴うヒビ割れ粘膜病変(図43)から小結節の集簇(IIa集簇様、敷石状粘膜)として捉えられる病変まで多彩である。これらの肉眼型は胃MALTリンパ腫が粘膜固有層から筋板下の粘膜下層を主たる増殖の場であることを反映している。一方、隆起型や決潰型の殆どはびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫が主体である。胃MALTリンパ腫のうち大型異型細胞の領域性増殖を伴うものや粘膜下層までmassiveに浸潤するものは粘膜下腫瘤様の「隆起」を呈する(図44)。従って、除菌療法など保存的治療で経過観察している症例で、肉眼型に「隆起」の要素を伴う場合は治療方針の変更を考慮すべきであり、当該症例の生検診断においては「大型異型細胞の混在の有無と多寡」について十分に注意すべきである。
図43 図44
 [4] 消化管生検組織診断において注目すべき点を列挙する。
 ステップ(1) 弱拡大、中拡大視野での観察
 1) リンパ球浸潤の領域性、組織内分布、細胞密度、既存組織破壊性の有無
 
  1. Chronic inflammation vs. Small B-cell lymphoma
  2. Small B-cell lymphoma vs. Large cell lymphoma
  3. Lymphoepithelial lesion: MALT lymphoma
 2) 細胞構成の単調性の有無
 
  1. Inflammatory process vs. Malignant lymphoma
  2. Mixed cell population: MALT lymphoma, Follicular lymphoma
  3. Highly monomorphic feature: Mantle cell lymphoma
 3) 結節状(リンパ濾胞様)構造の認定
 
  1. Reactive germinal center in chronic gastritis vs. Large cell lymphoma
  2. Marginal zone pattern: MALT lymphoma
  3. Follicular pattern: Follicular lymphoma
  4. Vague nodular pattern: Mantle cell lymphoma, MALT lymphoma
  5. Follicular colonization: MALT lymphoma
  6. Naked (burned-out) germinal center: Mantle cell lymphoma
 ステップ(2) 強拡大視野での観察
 1) 当該リンパ球の核のサイズと形態
 
  1. Small cleaved: Follicular lymphoma
  2. Centrocytic-like: MALT lymphoma
  3. Centrocytic (with slightly irregular nuclei ): Mantle cell lymphoma
  4. Dutcher body / Russell body: MALT lymphoma, Plasmacytoma
 2) 当該リンパ球の細胞質の性状
 
  1. Plasmacytoid: MALT lymphoma
  2. Monocytoid B-cell: MALT lymphoma
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  【悪性リンパ腫の分類、発生頻度、免疫組織学について】
 
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