消化管の内分泌細胞性腫瘍−特に内分泌細胞癌−の生検を含めた診断

 1. 消化器内分泌細胞性腫瘍の分類
   消化器腫瘍の新WHO分類(第4版)では神経内分泌に分化した腫瘍を Neuroendcrine neoplasia(NET)と総称し、それに含まれる腫瘍を以下のように分類した。(表 1, 1980と2000年の分類を対応させている)(文献1)

表1
表 1 (画像をクリックすると拡大表示します:259KB)

   基本的には低悪性度と高悪性度腫瘍に分けられ、従来と比べて分類の概念が明瞭となった。以前、前者は消化管では carcinoid tumor 膵では islet cell tumor と呼ばれてきたが、これを統一した名称として2000年の WHO分類では well differentiated endocrine tumor and well differentiated neuroendocrine carcinoma とされていた。この分類は言葉と概念に混乱を来したため、今回はこれらをまとめて neuroendocrine tumor(NET)とし、さらに転移の危険性がないか極めて低いものを NET grade 1, 転移を来す可能性のあるものを NET grade 2とした。また高悪性度腫瘍は neuroendocrine carcinoma(NEC)と mixed adenoendocrine carcinoma(MANEC)に分けたことが特徴である。従来の分類では NET grade 2は well differentiated endocrine carcinoma、NECは poorly differentiated endocrine carcinoma とされていたが(表 1)、両者は全く生物学的には別な腫瘍としての理解が可能となった。

 2. 神経内分泌腫瘍と内分泌細胞性腫瘍
   前述したように WHO はじめ世界では neuroendocrine tumor and carcinoma(神経内分泌腫瘍と神経内分泌癌)とされている。これに対し、日本の消化管癌取り扱い規約では低悪性度腫瘍は carcinoid、高悪性度癌は内分泌細胞癌 endocrine cell carcinoma(ECC)と記載されている(文献2)。この中で後者は消化管では多くの場合、粘膜に見られる腺癌あるいは食道では扁平上皮癌が深部浸潤したときに腫瘍細胞が内分泌細胞へ分化した癌となるため、また接頭語として“神経 - neuro”がつかないのは、消化管では内分泌細胞は正常の細胞増殖から分化する細胞で、基本的に本腫瘍が神経外胚葉ではなく内胚葉性起源の腫瘍のためである。しかし本稿では WHO分類に基づいて記載することにする。

 3. Neuroendocrine tumor(神経内分泌腫瘍)
   従来 carcinoid tumor と呼ばれて来た腫瘍である。その発生部位は日本では欧米と異なり直腸に最も多く、次いで胃、十二指腸、空・回腸の順に見られる。これは内視鏡機器と診断技術の進歩のためと考えられる。食道ではきわめて希である。 胃の神経内分泌腫瘍は発生環境の違いにより Rindi は Type 1, 2, 3 に分類した。
  Type 1:
    自己免疫性胃炎 Autoimmune chronic gastritis を伴うもの。本腫瘍は Enterochromaphin like(ECL)cell tumor で、胃底腺粘膜領域の萎縮と腸上皮化生も高度である胃体部に発生する。また腫瘍は多発し、さらに背景の萎縮した胃体部粘膜には非腫瘍性の内分泌細胞小胞巣(WHO では hyperplastic and preneoplastic lesions)が多発している。生検では組織学的に上記の背景粘膜を確認することが診断上重要となる。内分泌細胞小胞巣と腫瘍の鑑別は前者では粘膜中層から深部にリンパ球より大きめの細胞が10数個程度の胞巣を形成している。微小な腫瘍(カルチノイド)では細胞が 20μm程度と大きく、また胞巣を形成する細胞数も多い。 一方、幽門腺粘膜は萎縮が少なく、ガストリン細胞(G cell)の過形成が見られ、血中ガストリン値の上昇(hypergastrenaemia)を伴う。また、壁細胞減少により低酸ないしは無酸(hypo- or achlorhydria)を示す。
  Type 2:
    多発した内分泌腫瘍 multiple endocrine neoplasia(MEN1)と Zollinger-Ellison 症候群に伴って見られる。後者はガストリン産生腫瘍で、多くは十二指腸と膵に分布する。
  Type 3:
    以上のものを伴わない sporadic tumor。多くは胃体部に発生するが、単発で背景粘膜の萎縮は軽度である。 このほか分化した内分泌細胞の種類あるいは産生するホルモンにより ECL(enterochromaffin-like)cell NET、EC(enterochoromaffin)cell NET、gastrin producing NET(gastrinoma)などと呼ばれる。胃では ECL cell NET が最も多く見られる。また gastrinoma は十二指腸に多く見られる。

  肉眼像: 腫瘍細胞が主として粘膜下層に増殖するため粘膜下腫瘍類似の隆起性病変を形成する。大きさが 10mm以上では表面が黄色調を呈することもある。また表層にびらん形成やさらに 20mm以上では潰瘍を形成することもある。
  組織像: 粘膜深部から連続して粘膜下層に増殖する腫瘍で、小型円形細胞が線維性基質あるいは毛細血管で区画された大小の胞巣形成、あるいは策状(リボン状)配列を示す。また管腔様構造を伴うこともある(図1)。核は円形でクロマチンが濃い。また細胞質は豊富、微細な顆粒を認める。

図1
図1: NET の組織像
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  Grade I: 細胞あるいは核異型が全く見られず、核分裂もきわめて少ないか見られない。また Ki67(MIB1)による免疫染色で、最も染色された核が多い部分で標識率が 2%以下(10倍視野)とされている。
  Grade II: 核の軽度大小不同あるいは異型を示す。また核分裂も散見される(図2)

図2
図2:NET grade 2 腫瘍細胞に軽度の大小不同と異型があり、
免疫染色では Ki 67 陽性核が約3%に見られ、
リンパ節転移を認めた。
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 4. リンパ節などへの転移危険因子
   固有筋層以下への浸潤、リンパ管などの脈管侵襲等がある。表2で示したのは国立がん研究センター中央病院でまとめた直腸の NET における転移危険因子であるが、Ki 67 labeling index は 1.5%以上(WHO では 2%以上)、腫瘍径が 10mm以上、表面に潰瘍あるいはびらん形成を来したものなどである(図3)(文献3)。

図3
図3 (画像をクリックすると拡大表示します:222KB)

表2
表2 (文献3)(画像をクリックすると拡大表示します:146KB)

 5. Neuroendocrine carcinoma(神経内分泌癌) と mixed adenoendocrine carcinoma(腺内分泌癌)
   本腫瘍は早期に発見される頻度は少なく、大部分が pT2 以上の進行癌として発見される。国立がん研究センター中央病院では胃の神経内分泌癌 45例中、pT1a(sm)は 3例のみである。

  発生部位: 消化管では胃、食道、大腸、小腸の順に見られる。本稿では胃の神経内分泌癌と腺内分泌癌の特徴について述べる。国立がん研究センター中央病院 45例のまとめでは全切除胃癌に占める割合は 0.05%、病変部位は胃上・中部が多い。多発例は見られなかった。
  肉眼像: 小さな癌では粘膜下腫瘍類似の形態を示していることが多い。また進行癌では Type 2, 3の頻度が高いが、潰瘍は比較的小さく、その隆起の主体は非腫瘍性粘膜で覆われ、粘膜下腫瘍の特徴を有していることが多い。肉眼的な鑑別診断としてはリンパ球浸潤癌、粘液癌、GIST、悪性リンパ腫などが挙げられるが、必ずしもこれらの鑑別は容易でない。
  組織像(免疫染色): 粘膜下層以下に充実性増殖し、腫瘍細胞は小型円形ないしは時に短紡錘形を示すが、その他に大型円形細胞からなるものも見られる。小型細胞から成るものはかつて小細胞癌(small cell carcinoma)といわれてきたが、10μm程度の大きさで、細胞質に乏しい特徴がある。核はクロマチンが濃く、円形であるが、核分裂がきわめて目立つ。大細胞型は 15-20μmの大きさを有しているが、比較的明るい豊富な細胞質を有している。また核は円形であるが、時にクロマチンが疎で、核小体が目立つ(図4)。大小の細胞の混在も見られる(NCC-CIR症例 3-食道、症例 5-胃)。45例の神経内分泌癌中、小細胞型:大細胞型:混合型の比率は 16:18:11 で、大小の混合型多く小細胞部分と大細胞部分が分かれて存在することがほとんどである。腫瘍細胞の大きさにかかわらず、大小不規則な充実胞巣を形成し、その周囲には線維性あるいは血管間質で包囲されることが多い。また腫瘍細胞の策状ないしはリボン状配列も見られるが、NET と異なりそれらの配列は不規則である。さらに管腔様構造やロゼット様構造も希ならず見られる。

図4
図4 (画像をクリックすると拡大表示します:263KB)

   免疫染色では腫瘍細胞は chromogranin A、NCAM(CD56)、synaptophysin が陽性を示す。これらすべてが陽性を示すこともあるが、いずれか一つのみが陽性のこともある。また陽性細胞の分布はびまん性からごく一部までと様々である。またまれにこれらすべてが陰性のこともある(表 3)。

表3
表3 (画像をクリックすると拡大表示します:171KB)

 6. 腺神経内分泌癌(Mixed adeno-neuroendocrine carcinoma-MANEC)
   神経内分泌癌に腺癌を併存することがある。WHO分類では腺癌の要素が 30%以上含まれたときとしているが、30%以下の症例も多く見られる。その多寡にかかわらず、胃で腺癌を併存した神経内分泌癌は 33/45(77%)に見られている。中でも粘膜内に腺癌を認める頻度が高い(表 4)。また食道ではバレット腺癌と神経内分泌癌の併存が、扁平上皮癌と神経内分泌癌の併存が見られることもある(NCC-CIR症例 2,3-食道、症例 6-胃)。

表4
表4 (画像をクリックすると拡大表示します:205KB)

  消化管神経内分泌癌の発生: 胃の神経内分泌癌 45例の検討では腺癌併存例が 33/45(73%)に見られ、そのうち粘膜内に腺癌を認めたのは 25/45(49%)である。腺癌の組織亜型は分化型がほとんどである。一方、内分泌細胞癌は sm 以下の浸潤部のみである(表 4)。また、食道では上皮内に扁平上皮癌を認める頻度は約50%と報告されている(文献4)。 以上から、消化管の神経内分泌癌は腺癌や扁平上皮癌を原発として、癌の深部浸潤部で神経内分泌性格を有した腫瘍細胞に分化すると考えられる。
  悪性度: 神経内分泌癌は NET と異なり核分裂がきわめて多く、また Ki67(MIB1)抗体による免疫染色でもその標識率は 50%以上である。さらにリンパ管や静脈侵襲率も高く、リンパ節転移率は 35/43(77.8%)、肝転移率は 17/45(37.8%、うち同時性が4例)、Stage 別頻度では I, II, III, IV:2 : 4 : 1 : 10で、stage にかかわらず肝転移率が高い。 また、本腫瘍の術後の生存期間の中央値は 36.6ヵ月で、予後はきわめて不良である(表 5)。

表5
表5 (画像をクリックすると拡大表示します:99KB)

 7. 神経内分泌癌の生検診断
   本腫瘍は sm 浸潤部で特徴的な組織像を呈するため、生検で浸潤部が採取されない時は診断ができない。また腫瘍部が採取されても充実型低分化腺癌(por1)、未分化癌、悪性リンパ腫との鑑別がきわめて重要で、内分泌細胞マーカーによる検索が必須となる。さらに粘膜内腺癌の残存例では腺癌と診断され、神経内分泌癌の診断ができない場合があることを念頭に置く必要がある。従って、最低でも sm 以下浸潤部の生検組織採取が必要である。国立がん研究センター中央病院で経験された本腫瘍の生検診断率は胃で 18.8%、食道で 25%と生検診断率は極めて低い(表 6, 手術された症例のみ)。

表6
表6 (画像をクリックすると拡大表示します:164KB)

 参考文献
  
  1. Nomenclature and classification of neuroendocrine neoplasms of digestive system. Eds. Bosman FT, Carneiro F, Theise ND. WHO classification of tumours of the digestive system, 4th Ed. pp13-14, IARC, Lyon, 2010.
  2. 日本胃癌学会編.胃癌取扱い規約.金原出版、東京、2010.
  3. Hotta K, Shimoda T, Nakanishi Y et al. Usefulness of Ki 67 for predicting the metastatic potential of rectal carcinoid. Pathol Int 56:591-596, 2006.
  4. Yamamoto J, Ohshima K, Ikeda S et al. Primary esophageal small cell carcinoma with concomitant invasive squamous cell carcinoma or carcinoma in situ. Hum Pathol 34:1108-1115, 2003.